
東北の寒村で育った純情な娘、加代。雪の中でチンピラに乱暴され村を飛び出すが、売春宿や裁縫工場など行く先々で男達に翻弄される。やがて加代の心の中で復讐の炎が燃え盛り、男達を抹殺する計画を実行に移した…(Amazon.com.jpより引用)。1965年公開のピンク映画(R-18)。監督は若松孝二で、出演は千草みどり、三枝陽子、三宅一、明石健、細谷俊彰、立川雄三、寺島幹夫。
“ピンク映画の巨匠”若松監督の初期作品です。若松作品は政治性や社会性の高さゆえ、海外での評価も高く、ベルリン国際映画祭に出品した『キャタピラー』で、寺島しのぶが最優秀女優賞を受賞しています。
若松作品はピンク映画でありながら、「エロ的実用性」はあまり期待できません。本作が公開された1965年では、今より性表現の規制が厳しく、情事のシーンは女優の表情のアップになるだけで、ヌードになってもバストトップ(乳首)を見せません。今なお成人指定(R-18)であるのが不思議です。
本作にも言えることですが、若松作品は室内のシーンが多いです。これは低予算のためセットが組めないという事情によるところが大きいです。結果的に室内で濃密なドラマが展開されることが、日本社会の閉塞的状況を反映したものと解釈されていますけど。
それでも、本作では雪国での野外ロケを決行しています。ピンク映画にしては、思い切った予算の使い方です。東北の宮城県から上京し、日雇い仕事やヤクザの見習いで食いつないでから、ピンク映画界入りした若松監督は、主人公への思い入れが強かったからでしょう。暴行された女が汚れた体を浴室で清める「レイプシャワー」は、映画でよくあるベタな演出ですが、本作では、暴行された加代(千草)が汚れた体を雪で清める「レイプスノー」を見ることができます。雪中ロケを決行した成果です。
加代は男たちから酷い目に遭わされ、その怨念が男個人ではなく、男社会への復讐心にまで育ちます。虐待される時も復讐する時も、加代が魅力的になるように撮られています。若松監督とその作品は、世間からの偏見と異なり、フェミニズムな面があります。
男(社会)に虐げられながらも、成り上がって逆襲に転じる加代に、戦後日本の姿が重なっています(男たち=アメリカ、加代=日本と見ればです)。本作の時代背景として日米安保闘争があることから、その思いが強まります。しかし、若松監督が学生運動や市民運動を全面支持していたかと言えば、決してそうではありません。本作の加代は、元学生運動家のインテリ青年を色気で篭絡し、自身のアリバイ証言に協力させた後、甘ったれ扱いして捨ててしまいますから。インテリのこねくり回す理屈より、本能的なエロスを武器に、ピンク映画というアンダーグラウンドから日本社会を撃ってきたのが、若松孝二です。
★★★☆☆(2016年1月5日(火)DVD鑑賞)
若松孝二の映画界入りの動機は「映画の中なら警官をぶっ殺せるから」です。