
字廻組の構成員・南は、近頃奇妙な言動の目立つ兄貴分・尾崎を名古屋のヤクザ処分場へ連れて行くよう組長から命じられる。ところがその道中、南はうっかり尾崎を殺害。しかも、少し目を離した隙に尾崎の死体が消えてしまう。その時から、南の周囲で不可解な出来事が次々と起こりはじめ……(映画.comより引用)。2003年製作で劇場未公開作品。監督は三池崇史で、出演は曽根英樹、哀川翔、吉野きみ佳、火野正平、曽根晴美、冨田恵子、石橋蓮司。
劇場未公開(映画祭などの上映は除く。)のVシネマでありながら、カンヌ国際映画祭出品を果たした、「ヤクザ×ホラー」という前代未聞のジャンル作。Vシネマで経験を積んだ三池監督にすれば、自分の“故郷”に対する矜持の証しでもあったのでしょう。今年(2015年)のカンヌ国際映画祭には、「ヤクザ×ヴァンパイア」の『極道大戦争』の出品を果たしました。
「もしもデヴィッド・リンチがヤクザ映画を撮ったら」というコンセプトで作った本作は、正にリンチ的な映画に仕上がっています。ロードムービー的な展開は『ワイルド・アット・ハート』や『ストレイト・ストーリー』、尾崎(哀川)が違う人間になるのは『ロスト・ハイウェイ』、組長(石橋)の変態演技は『ブルーベルベット』のデニス・ホッパーで、夢が謎解きになるのは『ツイン・ピークス』ですね。
シュールな物語に奇妙な登場人物が現れ、不気味な空気を作り出します。奇妙な登場人物と言っても、上記キャストの他、間寛平、加藤雅也、川地民夫、長門裕之、丹波哲郎らが真面目に演じています。彼らがどうやって芝居のテンションを高めたのかが気になります。特に組長の「前例がない死に様」や、尾崎の「再誕シーン」は、どんな演出をしたのでしょう。
物語の軸になっているのは、尾崎と南の義兄弟関係です。それで尾崎が女性(吉野)に転生し、南と結ばれるのは、義兄弟関係=精神的ホモ関係というヤクザ映画の核心を提示しています。また、尾崎の「再誕シーン」におけるグロテスクさは、出産に対する男性の嫌悪感につながります(『イレイザーヘッド』の奇怪な赤ん坊と共通する感覚です)。その意味で、本作は極めて男性的な映画です。
★★★★☆(2015年5月11日(月)DVD鑑賞)
名古屋という街は、本作で描かれているほどイカれた場所ではありません。