
井伊家上屋敷に庭先で切腹したいと申し出る浪人が現れた。巷間で流行っている「狂言切腹」かと思い、金を出さずに軽くあしらおうとする井伊家家老であったが・・・。1962年公開の異色時代劇。監督は小林正樹で、出演は仲代達矢、石濱朗、岩下志麻、丹波哲郎、三國連太郎。
同じ原作小説(滝口康彦「異聞浪人記」)を、三池崇史監督の『一命』で再映画化しています。仲代演じる浪人、津雲半四郎を市川海老蔵が、三國演じる井伊家家老、斎藤勘解由を役所広司が演じています。『一命』は近年の時代劇としては重厚な出来ですが、役者の面構えも含め、本作の重厚さには勝てません。
題名のとおり、切腹シーンがあり、鮮血描写が生々しいです。本作はモノクロ映画なので、血の色は赤ではなく黒です。それでも、流血の痛みや毒々しさが伝わってきます。演出の妙と言ったところです。
武満徹の音楽で、物語により引き込まれます。非時代劇的で前衛的な楽曲ではありますが、画面と違和感なく、渦潮のように観る者を引き込みます。篠田正浩監督の『心中天網島』でも同じ感覚を味わいました(こちらにも岩下が出演しています)。
仲代が日本人離れした濃い顔立ちで髭面なので、時節柄中東のテロリストに見えてきます。IS(「イスラム国」)は、大国アメリカの傀儡政権から追放されたイラクの元軍人や元官僚と、外国人の傭兵から成りますから、「浪人」に類します。金目当てのテロ行為であれば、理由も聞かず竹光で切腹を強いるような、残酷な仕打ちにも理があります。しかし、どのような経緯でテロリストになったかの「身の上話」を聞かず、上から目線で責めるのは如何なものでしょうか? 都合の悪い真実を隠蔽し、体裁を繕った「井伊家覚書」を鵜呑みにしていいものでしょうか? 体制が自分の過ちに目を向けなければ、第二の「津雲」が現れます。
ラストの大立ち回りは、一種の観念劇です。津雲がどれだけ凄腕の剣士であっても、多勢に無勢で敵うわけがありません。早い段階で返り討ちに遭うのが現実です。シンメトリー構図で奥行のある屋敷内は、武家社会という権力システムを視覚化したものです。そこに孤軍奮闘で立ち向かう津雲の姿は、権力べったりの飼い犬でもない限り、胸を打つものがあります。
本作は何時の世も観られるべきで、そして観た者に思索の糧を与える名作です。
★★★★★(2015年2月14日(土)DVD鑑賞)
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