
網走刑務所に収監された橘真一。ヤクザの世界に入り、傷害罪で入獄したが、病気の母と妹のために早く出所しようと、真面目に刑期を務めようとしていた。しかし、他の囚人の脱獄計画に巻き込まれてしまう(1965年公開)。監督は石井輝男で、出演は高倉健、南原宏治、田中邦衛、嵐寛寿郎、丹波哲郎。
健さんをスターの座に押し上げた人気シリーズ第1作。後年のイメージと異なり、当時の健さんは、饒舌で感情的です。共演者の田中の物真似をするほどです。この「健さん物真似」は、『幸福の黄色いハンカチ』における「健さんジョーク」(『みっともない(ミットもない)』というネタ)に匹敵する意外性があります。
後半で橘(高倉)と権田(南原)が手錠で繋がれた状態で脱走するアイデアが、『手錠のまゝの脱獄』のパクリであることは有名な話です。しかし、単なるパクリに終わらせず、石井監督は自分の刻印をします。囚人の会話の端々にギャグを入れ、橘と家族のやり取りには叙情性を出します。脱獄計画から逃走までの展開はテンポ良く、スリル感があります。「笑う、泣く、(手に汗を)握る」の三要素が揃った娯楽作です。
健さんは本作からのシリーズにより、「網走刑務所に服役している」という北国のイメージが定着します(『網走番外地 南国の対決』という題名が矛盾しているような作品もありますが)。そのため、『幸福の黄色いハンカチ』において、観客がそのイメージと地続きで見ているので、健さんの役柄についての説明を省くことができます。それ以降の作品でも、『昭和残侠伝』などの任侠映画のイメージがあるので、「訳ありの過去を持つ男」を演じることに説得力があります。観客の映画的記憶を想起させる、健さんは稀代のタイプキャスト俳優だったのです。
★★★☆☆(2015年2月11日(水)テレビ鑑賞)
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