thee deadman's curve
1st Full Album 『BARF OUT』
https://linkco.re/0uzNc2s8
Barf out : 意味 嘔吐、吐き出す
今回の解説はBeat編。
thee deadman's curve(以下DMC)のBeat制作の影響源や四方山話をつらつら書こうと思う。
全曲通して意識したのは疾走感とノイジーさ。
PUNKでROCKでインダストリアルでnoiseな音楽を作りたかった。
なぜそのようなBeatにしようと思ったのかと言うと、
それはFuzzとNAKA THE WORLDの共通した趣味嗜好に基づいたからだ。
主な影響源となったHIPHOPは以下の通り(影響を受けたポイントも記載する)。
・Company Flow - Funcrusher plus
サンプリング元の奇怪さ。普通のHIPHOPが使用しないサンプリングネタや見逃してしまうような僅かに鳴らされた音などを利用しているところに影響を受けた。
・rubberoom - architechnology
ノイジーさと暴力的に叩きつけられたようなドラム。血圧高めなラップスタイルに影響を受けた。
・Dälek - Absence
ノイズを多用して、それでいてボトムが太く重厚なドラムの使い方に影響を受けた。
・antipop consortium - Arrhythmia
Co-Flowと重複するがサンプリングの奇抜さが一点。ジャンルレスな音楽性だが土台はしっかりHIPHOPを貫いている点に影響を受けた。
・Techno animal - The Brotherhood Of The Bomb
もう全体的に影響を受けている。音割れ上等な暴力的な音像。
・anticon - Anticon Presents: Music for the Advancement of Hip Hop
anticonというレーベルは多様な音楽性がウリなのだがこのレーベルを追いかけていたことでどのジャンルにも属さないオルタナティヴな感覚が鍛えられたと思う。
上記アルバムは大体00年代前後にリリースされた作品群だ。
アングラ、オルタナティブにカテゴライズされるだろう。
どれも普通のHIPHOPとかけ離れたイレギュラーかつアブストラクトな表現である。
これらがDMCの音楽性の礎になっている。
興味のある人はぜひ聴いてみて欲しい。
Fuzzの制作方法は基本的には全ての音のパーツをレコードからのサンプリングで作っている。hi-hatやキックなどの音も含めてレコードから採取している。一部古いドラムマシンの音や無料のドラムキットも使用しているが、割合で言えば8:2でアナログからのサンプリングである。
回線図としてはアナログレコード→DJミキサー→MPC1000→SP303(vinyl sim)→アナログミキサー→ガレージバンド(パラMIX)→FL studio(2mixをさらにミックス)といった流れである。
さて前置きが長くなりがちなのは俺の悪い癖であるので早々に各曲解説に移ろう。
1.BARF OUT
アルバムの幕開け。
元々、日本のメタルバンドをサンプリングして制作した。
確か新宿のHMVで500円ほどで購入したものだったはずだ。
本当はもっとメタルな感じを出したかったのだが、思いの外Funkなノリになった。
一曲目はこのアルバムがどういった音なのか、自己紹介として大切だと思う。
DMCをイメージ付けているノイジーでテンションの高い始まりにしたかった。
ちなみにイントロとアウトロのモノマネは相方のNAKAが担当している。
(この録音で一番拘ってリテイクを重ねたのがモノマネのパートであることは秘密)
2.ANTIZM
EPでリリースした曲ではあるがアルバム用にボーカルを録音し直し、ミックスも変えている。
これはNAKAが近所のレコ屋で掘り出した490円の謎のジャズパンクのレコードからサンプリングした。
我が家で酒を飲みながらNAKAが持ってきたレコードを鑑賞している時にFuzzの耳にこの原曲が引っかかり、
酔ったままノリと勢いで20分ほどで作ったBeatだ。
MPCでhihatを打つ場合、16levels機能で強弱を付けたり、クォンタイズをOFFにしてグルーヴを出すのが一般的な手法であるが、
この曲のhatは強弱を付けずクォンタイズをONにしたまま打ち込んだ。
なぜかというとパンクのノリを出したかったからだ。
俺の主観であるが、ブラックミュージックとは円運動のグルーブ(と言うよりグルーブ=円運動かも)であるが、
パンクは直線運動だと思っている。
その直線的な流れを作るために音の強弱や揺れやズレを加えず一定のリズム、一定の音量でhatを刻みたかった。
決して酔って面倒臭かったからではないのである。
ちなみに2回目のHookの後の「俺たちは…」の声ネタはDMCが敬愛するバンド「ミッシェルガンエレファント」のライブ映像から採取した。
3.FUGAZI feat. MONO_Holy Beggar
このbeatはchicago drillをイメージして作った。元ネタは新宿のHMVで購入したロックのレコードだと思う。
ロックだけどハードコアテクノみたいな10インチだったと記憶している。トラック内でブンブンいってる808kickもそのレコードから採取したものだ。
最初はBPM120のハードな4つ打ちを作っていたがしっくりこなかったので、試しにすでに打ち込まれていたシーケンスのBPMを100に落としたらカッコよくなったので採用した。
トラック内にこれでもかと音を敷き詰め、ヒステリックなノイズをループさせ、躁病患者のように忙しないhatの連打が気に入っている。
この曲の制作に入る前にチーフ・キーフのBangやI don't likeを聴いていたのでその影響が如実に出たのだろう。
4.D.M.C.
元ネタは仲澤が持参した謎の10インチ(ANTIZMで使用したやつ)。実はこの謎の10インチでアルバム中5曲作ってる。
デッドマンズにとって運命の出会いと言っても過言ではない。
この曲が最もシンプルに作られたBeatだろう。総トラック数は5か6。
シンプルでチープな作りがこれぞパンクって感じで気に入ってる。Liveでやる時はアウトロで「go to dmc !!」と叫ぶのだが、元ネタはデトロイトメタルシティという漫画である。
5.Outsider
上物の元ネタは仲澤が持参した映画のサントラ。ブヨブヨ鳴ってるacid bassは俺が掘り出したロックのアルバムからだ。
ドラムパターンはCompany Flowの楽曲「WEIGHT」(正確にいうとCo-FlowとJUGGAKNOTSとJ-TREDSからなるINDELIBLE MC'S名義の曲)を参考にした。
ドラムやベースは荒っぽいのに上物の音は煌びやかなギャップが気に入ってる。
仲澤のラップが際立つように彼のverseのラスト4小節の音抜きは結構試行錯誤した。
ここだけの話、ライブでやると結構難しい。
6.Noisy for you
これは俺が掘り出したロックのレコードが元ネタ。rage against the machineみたいになって気に入ってる。
この曲のドラムはRolandのdr-770からサンプリングしたモノだ。スネアの抜けが気持ち良い。
真ん中あたりで鳴ってる変なノイズも上記ドラムマシンの音をサンプリングしてチューニングを下げたらいい感じになったので採用した。
このノイズを入れる前はなんだか平凡でつまらないBeatだったのだが、このノイズ一音が入っただけで印象が変わった。
7.OLD BOYS feat.Nanbang Death Beach
オリエンタルなギターと変なノイズの元ネタは俺が掘り出したロックのレコードとカポエイラのレコードから。
オリエンタルギターは16分割のchop&flipは使わずに4小節サンプリングしたものをチューニングだけドラムと合わせて垂れ流しているだけ。
同様に変なノイズは8小節分サンプリングして半分に分けたものを垂れ流しているだけ。
上ネタに関してはテクニックを使わずにサンプリングの醍醐味である組み合わせの妙で生み出された。
ドラムは仲澤が持参したバレエの練習用教材のソノシートから。
この固く圧縮されたスネアを聞いた瞬間にCompany-Flowの楽曲「fire in which you burn」(正確にいうとCo-FlowとJUGGAKNOTSとJ-TREDSからなるINDELIBLE MC'S名義の曲)を連想したので、ドラムパターンは丸々引用した。
8.in the cross fire
この曲はジャージクラブとシカゴ・フットワークを組み合わせたもの。verseがジャージーでHookがフットワーク。
ドラムはweb上に落ちていたフリーのdrum kitを使用。フットワークで伝統的に使用されるドラムマシン Roland R-70から作られたキットだ(すでにFuzzは本物のR-70を入手したのでこのキットはお役御免である)
BPMは160。これもフットワークの定番BPMだ。
上音は確か仲澤が持参したハードコアパンクのレコードから。
我ながらパンク+ジャージー+フットワークという組み合わせは中々無いものなので非常に気に入っている。
9.Taxi driver
この元ネタは仲澤が持参した謎の10インチ。
アルバム中最もレコーディングが難しく最もリテイクが多かった楽曲。
非常にラップが乗せづらいBeatだった。
なぜこんなに難しいのかMV監督のマー坊(彼はそもそもベーシストである)に分析してもらったところ、
「4拍目の裏が無い」という事が発覚した。
実はFuzzは上物をサンプリングしてチョップする際、MPCのスライス機能で分割したものをそのまま使用している。
このスライス機能に癖があり、必ずしも均等に分割されていなかったり、音の頭がズレたところで分割されることが多々ある。
それを分かっていながら微調整を加えずそのまま使用しているのはなぜか?
「面倒臭い」この一言に尽きる。
10.Phankey Brain
この元ネタは仲澤が持参した謎の10インチ。
分割してチューニングを下げたものをフリップして打ち込んだ気がする。
仲澤お気に入りのBeatで彼はこのギターサウンドを聴くと泣きそうになると言っている。
陰鬱とした泣きのギターメロディと軍隊の行進のようなドラムに破滅的なノイズはこれから死地へ赴く兵隊を連想する。
なのでアルバムの起承転結の結の始まりにしたかった。
このアルバムは3×4=12で3曲ごとに起承転結が移り変わるようにトラックを配置している。
ここからデッドマンズは終わりに向かいますよという転換点となるようにアルバム内に配置した。
11.Pink moon feat.DJ Toku
この曲の上物の元ネタは企業秘密。とある日本の古いレコードとだけ言っておく。
16分割したものをチューニングもの凄く遅くしてフリップした。
浮遊感があり冷たい音色のアンビエンスなシンセと悲しいピアノの組み合わせが、より死の匂いを濃くしている。
ドラムパターンはCo-Flowの楽曲「END TO END BURNERS」を参考にした。
phantomのメンバーDJ Tokuがキレッキレなスクラッチを入れてくれた。
スクラッチのRec中にTokuの機材の不調により原音はかなりノイジーな音だったが、
Daw内のEQと組み合わせたら見事に化けた。
やはりトラブルはヒップホップにおいてデメリットにならない。
12.dead end
この曲のバリバリしたノイズとドラムブレイクは仲澤が持参した謎の10インチから。
上物は企業秘密。
キックとスネアはとある有名J-POP内のドラムをサンプリングした。
陰鬱とした怪しいムードのメロディにノイズの組み合わせが予想以上のドラマを生み出したと思う。
このビートが出来上がった瞬間にこれはアルバムラストに配置しようと決めた。
Fuzz的には一番好きなBeat。
⚪︎疾走感について
アルバム制作を終えて疾走感を生み出す要因は何かを分析したところ、
おそらく↓の2点だと思う。
1.スネアを前のめりに打ち込む
このアルバム内のBeatはほぼクオンタイズをOnにしているがスネアだけはOFFで打ち込まれているものが多い。
Fuzzのタイム感とMPCのクオンタイズのタイミングがスネアに関してはどうしても合わない。
グリッド通りのスネアだと非常に遅く聴こえてしまい違和感が拭えない。
前のめりにスネアが打たれることによって聴いている人間も前のめりにビートを取りに行くのでそれが疾走感に繋がるのだと思う。
2.四拍目の裏を短くする
マー坊によって発覚したがTaxi driverは4拍目の裏がない(あるいは短い)
通常のリズムの取り方はワン・エン・トゥー・エン・スリー・エン・フォー・エン
なのだが、
デッドマンズはワン・エン・トゥー・エン・スリー・エン・フォー・エ
でワンに戻っている。
4拍目の裏が0.2〜0.5短いことによってこれも前のめりのノリが生まれ疾走感に繋がっているのだと思う。
⚪︎終わりに
ここまで読んでくれた人に有難う。とても良い人か変人か良い変人なのだろう。
このブログ内に挙げらたアーティストとその楽曲を一通り聴いてからまたデッドマンズのアルバムを聴き直すと面白いかもしれない。
あなたがとても暇か、あるいはデッドマンズのファンというとても稀有な存在であるなら試しにやってみてほしい。
次はRap編を書く予定なので楽しみにしててほしい。