謝:
最初、この(演奏会にソリストでという)話を久津那さんから聞かれたと思いますが、率直にどう思われましたか?
井:
ダイバースの第1回のプログラムを見て、何というか・・・
こんな面倒くさいプログラムをやるんだ、すごいな!っておもいました。(笑)
全員:
爆笑
謝:
それは否めない・・・(笑)
井:
絶対弾いた事ないような曲ばかり。
謝:
まぁ、ラフマニノフ(交響的舞曲)が何人かいるかなってくらいでしたね。
井:
それでも少数派でしょう?
謝:
ですね。バッハもそうでしたし、吉松 隆(ピアノ協奏曲”メモ・フローラ”)に至ってはもう、誰も知らないレベル。吉松 隆 = 平清盛の劇伴作曲家かな?ってくらいの認識だったので。
あれも松永さんと市川(未来)さんとの話の中で偶然出てきた曲で、確かに凄く綺麗な曲なんだけど、市川さん本人から(メモ・フローラに決めたと)言われる
までは本当にするとは思ってなかったですね。で、いざ練習をやってみると「何じゃこら?」みたいな譜面で。確かに仰る通り、面倒臭い事はしてるなと。
井:
ゼロから全部作り上げなきゃいけないのは大変ですね。
謝:
今回も負けず劣らず...
井:
(笑)
謝:
ニールセンもプロコフィエフも演奏経験者は多分いないかと。プロコがギリギリいるかどうかというレベル。ニールセンは絶対いないです。
まぁこの話を聞いて面倒臭いっていうのは・・・僕は主宰で企画者だから、誘われた人に直接聞いて本心の解答を得られないとは思いますけど、多分オケの人もそう思ってますからね(笑)。
全員:
爆笑
ー インタビュー途中の写真(左:井阪さん / 右:謝花 撮影:間嶋さん)
「こうやりたい」ってのをハッキリ持ってないと、人には伝わらない
謝:
プロコフィエフのVn協奏曲2番はどのような曲でしょうか。
井:
プロコフィエフのコンチェルトは2曲とも物語的でファンタジーに溢れているのですが、2番のコンチェルトは、1番に比べてとてもソリスティックな作品だと思います。1番が水彩画のようなイメージだとすると、2番は油絵のような重なりを感じます。
1楽章の冒頭の民謡からとられたという主題は、語り手のモノローグのように感じます。最初にモノローグがあって、そこから物語に引き込まれて行きます。
第2主題のところは、ロメオとジュリエットのバルコニーの場面のようなイメージです。愛を感じます。
全体を通して、ソロとオケが溶け合う部分もたくさんありますが、対峙して、お互いに仕掛け合っていく面白さも際立っていると思います。
謝:
それを僕らが実現できるのか・・・
間:
そう・・・ちゃんとできるのかなって。
井:
まず私が「こう弾きたい」というものを明確に持ってないと、伝わらないと思います。どうしたいのか解らない音がひとつも無いようにしたいなと思います。具体的なイメージが作りやすい作品ですしね。
学生の頃に弾いて以来なので、もう一度しっかり楽譜を読みなおそうと思っています。”出てしまった”音ではなく、”出したい”音を出すことが大切だと思います。
謝:
意思を持って、という事ですか。
井:
そうですね。そういう部分では、オーケストラの仕事がとても勉強になります。指揮者の表情から学ぶことも沢山あります。
この間、尾高マエストロの指揮で、アンコールでドヴォルザークのスラブ舞曲(第2集2番、ホ短調)を弾いたのですが、冒頭の繰り返しを入れて8回同じモチーフが出てきます。その全てひとつひとつ表情が違って、その表情8つに言葉を当てはめることは難しいくらいの繊細な違いなのですけれど、何て感情の種類が多いのだろう・・・って。
スラブ舞曲なんて何十回も弾いているような曲なのに、心から感動しました。
アーティストの哲学
謝:
今回、演奏会にご出演頂いて、もちろんこれは通過点でしかないと思いますけど、この先、どういう演奏家やアーティストになりたいというのはありますか?
井:
まず、弾く事と教えることの両立と、その中でもソロ、室内楽、オーケストラ、古楽を全部バランス良く続けたいと思っています。
そこにこれから子育てなど音楽以外の要素が入ってくると思うのですけれど、私は何かのために何かを捨てるということができない性格なので、全部やると思います。
そしておばあちゃんになっても弾き続けたいです。70歳くらいになった時、私の演奏を聴いて何かを感じてもらえるような演奏家でいられたら嬉しいです。
謝:
井阪さんにとって、ヴァイオリンとは何ですか?
井:
難しい質問...私は小さい時に、バレエダンサーかオペラ歌手かヴァイオリニストになりたかったので、ダンスや歌への憧れは今もずっとあります。踊る人や歌う人がすごく羨ましい。でも。私はヴァイオリンを選びました。
ですので、歌と踊りをどちらも表現できるものだと思います。プロコフィエフでも、1、2楽章にたっぷりヴァイオリンの声を聴かせるところがありますし、3楽章はダンスの振付が目に浮かびます。
謝:
今回の演奏会の参加者や聴きに来られる方へのメッセージをお願いします。
井:
とても物語性の強い作品ですので、スペクタクルを観た時の高揚感のようなものが伝わったらよいなと思います。
私、劇場に行った時のそういうのが大好きで、それが出来たらと思います。
謝・間:
本日は長い時間、ありがとうございました。
井:
ありがとうございました!
ー 後半は井阪さんの御自宅にてインタビューを行いました。是非1/20、いたみホールにお越しください。
2018年11月18日、STARBUCKS COFFEE LAQUE烏丸店、及び井阪さんの御自宅にてインタビュー。
聞き手/撮影:間嶋 美波
(Minami, Majima | diversEnsemble 管楽器セクションリーダー / Flute)
聞き手/文字起こし・編集:謝花 旭
(Akira, Syahana | diversEnsemble 主宰・プロデューサー/ Oboe)