ワンツーワークス#40 シリーズ「命を見つめる」①
『神[GOTT]』を観てきました
場所は下北沢・駅前劇場
劇場ではTシャツなどが販売されてました
上演時間 : 約2時間15分 (途中15分の休憩含む)
公開討論会 110分
投票・休憩 15分
投票結果公表 10分
【アウトライン】
人は、人生最期の時を自分で決められる?
決めていいのか?
究極の問いに、「真っ向勝負の激論」が
戦わされる緊迫のドラマ。
「さて、そろそろだわね……」
あらかじめ決めていた時刻が近づいてきて、ゆっくりとソファに座る。長年愛用してきたソファはいつ身体を預けてもゆったりとした安らぎを与えてくれる。周りには家族、親しい友人たちがやさしい顔で見守ってくれている。みんなの視線が注がれるなか少し気恥ずかしそうに、手にしたグラスの水で薬を飲んだ。控えめに流れる音楽が心地いい。娘が白い花束を胸元に手渡し、夫が隣のソファに座ってそっと右手を握りしめる。微笑みを浮かべて夫の手を握り返し、静かにゆっくりと、その人は両の瞼を閉じた……。
いつだったか、テレビで観たドキュメンタリーの映像は、実際に行われた「安楽死」に至る様子をことさら何かを煽るでもなく、誇張するでもなく、ただ目の前の出来事を淡々と映していました。
私は驚きました。そこには耐えがたい痛みに苦しむ様子も、「その瞬間」を見守るしかない周囲の人々の抑えきれない喚きや慟哭も、何ひとつなかったからです。どこまでも「穏やか」。そう、ただ、ただ穏やかに、「生から死へと渡っていく」。それは観ていて拍子抜けしてしまうほどに、もの静かなイベントでした。
私の両親は、どちらも壮絶なほどに苦しみ抜いて死んだので(母親のときは医師に「お母さん、心臓がお強いんですね。心臓が弱ってしまうまで、もう少し時間がかかると思います」と言われた)、父も母も「安楽死」という選択があったなら、もう少し自分の人生を慈しんで振り返りながら眠るように逝けたのかもしれない、父と母の最期がそうしたものであったなら、私の「死に対する考え方」も大きく変わっていたのかもしれない。そんなことを考えたりしました。
ところで皆さん、以下の国々には「ある共通点」があるのですが、それが何なのかわかりますか?
「オランダ/ベルギー/ルクセンブルク/オーストラリア/ニュージーランド/スペイン/カナダ連邦」
……どうでしょう? わかりましたか?
実はこれ、「積極的安楽死」「医師による自殺幇助」、そのどちらの安楽死も容認している国々です。
「積極的安楽死」とは、致死薬を注射などで医師が投与して命を絶つ方法のことで、医師が致死薬を処方はするが服用は患者自身で行う方法は「医師による自殺幇助」として区別されています。
つまり、死に至らしめる最後の行為(投与 or 服用)を行うのが医師なのか患者本人なのか、それだけの違いではあるんですが、考え方によってそこには大きな壁がそびえ立っていて、そのどちらかだけなら容認するという国もあるんです。
例えば、「積極的安楽死のみ」を認めている国には、コロンビア、カナダ(ケベック州)などがあり、「医師による自殺幇助のみ」を認めている国には、スイス、イタリア、オーストリア、アメリカ(ワシントン州、カリフォルニア州、ハワイ州ほか)などが挙げられます。いずれにせよ、ここまで名前を挙げた国であれば今現在、安楽死という手段を合法的に選択できる、ということになります。もちろん、日本ではどちらも認められていません。
また「消極的安楽死」とは、生命維持(延命)のための治療を中止する、あるいは行わないことで、これは日本でも要件を満たせば容認されていて、一般的に「尊厳死」と呼ばれています。延命は行わないが、あくまで「自然死を待つ」というスタンスですね。
話は変わるようですが、この1-3月期に放送された連続ドラマ『春になったら』(フジテレビ)では、木梨憲武が演じた「父」が末期癌で余命3カ月と宣告されるものの、延命治療は一切行わない道を選ぶ、という物語でした。つまりこれは消極的安楽死(尊厳死)を描いたドラマでもあったわけです。
私はこのドラマを毎週欠かさず観ていましたが、全体的にハートウォーミングに描かれていたため、私としては「いやいや、もっと苦しむだろうよ」とツッコミを入れたくなる場面も少なくなく、どんなに痛み苦しもうとも延命治療を拒否し続ける「父」が意志の強すぎる「鉄人」のようにも見えたりして、最終回までにこの尊厳死はどんな変遷をたどることになるのか、その描き方がずいぶんと気になったものです。
今回上演する『神[GOTT]』はチラシにもある通り、「安楽死をどう捉えるのか」、換言すれば「命の最期をどう見つめるのか」といったことを観客の皆さんも一緒になって考える舞台になっています。
「ということは、小難しい舞台なのか?」と思われるかもしれませんが、はい、その通りです。とっかえひっかえ、さまざまな立場の専門家が小難しいことも含めて自分の考えを主張しまくります。
ですが私はこの戯曲を読んでいて、その小難しい主張の先に、またその奥にある、人間の持つ弱さや強さ、ずる賢さ、はたまた揺るぎない信念のようなものまでがズシズシ伝わってきて、激しく心を何度も揺さぶられました。戦わされるその激論に「めちゃくちゃ興奮した」と言っても過言ではないです。
もちろん私が味わった興奮を皆さんに届けるには、俳優に「確かな腕」があることは必須です。つまり、出演者全員が完全に当人になりきって説得力ある主張を戦わせてくれるほどに、この戯曲の高揚感は増すのです。そこで今回はこれまで何度も一緒に作品をつくってきた、私が信頼を置く俳優ばかりに集まってもらいました。これで面白くならないはずがない。どうぞ、演劇の醍醐味を存分にご堪能ください。
2024年5月10日 古城十忍
【キャスト】 (以下敬称略)
みとべ千希己 : ゾーイ・フィッシャー
永田耕一 : リヒャルト・ゲルトナー
みゅんふぁ : ルイーザ・ブラント
関谷美香子 : リア・ケラー
奥村洋治 : ベン・ビーグラー
鈴木弘秋 : エリアス・リッテン
小山萌子 : モニカ・シュペアリング
藤敏也 : ヘルムート・ティール
【感想】
ワンツーワークス公演の観劇は4公演目でした
内容はアウトラインに書いた通りですが
人生最期の時を自分で決められるのか?決めていいのかを問う観客参加型の舞台でした
白熱した議論に引き込まれましたね
「医師による自殺幇助は認められるのか?」についての討論会が終わると
賛成・反対を観客が投票し最後に結果を公表して終わりました
結果は反対票が多かったですね
メッチャ面白い試みでした
終演後、アフターイベントがありました
が、観てしまうと次の公演に間に合わないので
やむを得ず退館しました
この公演は7/28(日)までやってます
興味のある方は是非
ディナーに続く・・・