『罪木味龍香の伝奇』
其の一
私が高校生になって以降、初めて遭遇したおかしなことについて、ここで語ろうと思う。
私こと罪木味龍香(つみきみ・りゅうか)のクラスメートが家出したまま行方不明になったのが事の発端。家出の理由は親との不仲だったんだけど、話を大きくしたのは通称《家出の妖怪》のせいだった。
雀の姿で彼女の前に現れた妖怪は《楽しかった過去》と《つまんない今》を彼女に見せた。多くの人が忘れようとしたり、別の何かに熱中することで折り合いをつけるその問題に、彼女は逃避という手段をとった。雀を連れてどこまでも逃げた彼女はついに動けなくなってしまった。
私はというと、とある人物――血糊樹意志乃(ちのりぎ・いしの)という少女と再開を果たし、成り行きで家出の彼女を捜索することになった。
意志乃から《家出の妖怪》の仕業だと知らされた私は推理の末、彼女は《まともさ》から逃げているという推論を立てた。もし本当にそうならば犯罪に巻き込まれるとか、ないしは犯罪者になりかねない。意志乃の《ヤマアラシ》の力も借りながら、捜索の末私たちは繁華街で彼女を発見した。
彼女の傍らには雀がいた。《家出の妖怪》は私たちに襲いかかってきた。私も喰われかねない攻撃だったけど、意志乃が投げた《針》が妖怪を留めた。結局私の《土龍(もぐら)の眼》に出番はなかった。
目覚めた彼女はまだ現実を受け入れきれず、帰りたがらなかった。少し荒療治ではあったが、意志乃の《鍼(はり)》で治すしかなかった。
彼女――約束縛砂名(やくそくばく・すなな)は話を聞く限り、幼い頃から厳しく育てられたようだった。確かにクラスメート相手に礼儀正し過ぎるし、どこか気品のようなものすら感じた。
かなり説明不足な怪異譚ではあるけど、私や意志乃についてはまた別の機会に。
其の一《終》