ウルトラ・フリップフロップ(元タイトル:不正解)

ウルトラ・フリップフロップ(元タイトル:不正解)

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   『罪木味龍香の伝奇

   其の一

 私が高校生になって以降、初めて遭遇したおかしなことについて、ここで語ろうと思う。

 私こと罪木味龍香(つみきみ・りゅうか)のクラスメートが家出したまま行方不明になったのが事の発端。家出の理由は親との不仲だったんだけど、話を大きくしたのは通称《家出の妖怪》のせいだった。

 雀の姿で彼女の前に現れた妖怪は《楽しかった過去》と《つまんない今》を彼女に見せた。多くの人が忘れようとしたり、別の何かに熱中することで折り合いをつけるその問題に、彼女は逃避という手段をとった。雀を連れてどこまでも逃げた彼女はついに動けなくなってしまった。

 私はというと、とある人物――血糊樹意志乃(ちのりぎ・いしの)という少女と再開を果たし、成り行きで家出の彼女を捜索することになった。

 意志乃から《家出の妖怪》の仕業だと知らされた私は推理の末、彼女は《まともさ》から逃げているという推論を立てた。もし本当にそうならば犯罪に巻き込まれるとか、ないしは犯罪者になりかねない。意志乃の《ヤマアラシ》の力も借りながら、捜索の末私たちは繁華街で彼女を発見した。

 彼女の傍らには雀がいた。《家出の妖怪》は私たちに襲いかかってきた。私も喰われかねない攻撃だったけど、意志乃が投げた《針》が妖怪を留めた。結局私の《土龍(もぐら)の眼》に出番はなかった。

 目覚めた彼女はまだ現実を受け入れきれず、帰りたがらなかった。少し荒療治ではあったが、意志乃の《鍼(はり)》で治すしかなかった。

 彼女――約束縛砂名(やくそくばく・すなな)は話を聞く限り、幼い頃から厳しく育てられたようだった。確かにクラスメート相手に礼儀正し過ぎるし、どこか気品のようなものすら感じた。

 かなり説明不足な怪異譚ではあるけど、私や意志乃についてはまた別の機会に。

   其の一《終》
   アナザープロテクト

   Chapter.1

 硬質な装甲で埋め尽くされたこの街は、装甲の漆黒と、十数年前の《事件》以降昇らなくなった太陽と、そこかしこの有機EL発光体によって、独特の様相を醸(かも)し出している。こんな状景はこの街以外では見られまい。空を満遍(まんべん)なく覆う暗雲の下(もと)、密会を果たす男女の姿がとあるビルの屋上にあった。

 緑の光に照らされた男女は2人とも軍服を着込み、決して愛の逢瀬(おうせ)を目的としたランデブーではないことが伺(うかが)える。この世界から《会話》が消えて、もう久(ひさ)しい。この暗視ゴーグルをもってしても、音声を介さず交わされる会話を聞き取るのは不可能だ。

 しかし会話自体にはそもそも期待していない。今日この場で女から男に受け渡されるアイテムにこそ、こうして隠密(おんみつ)行動に出た意味がある。隣で《コードネーム=フェレット》が銃のスタンバイを開始した。観測対象の男女同様、彼女と私の間にも音声は交わされない。
「スタンバイ完了」
「認識」
 彼女の無音の報告に私は応答した。タイミングが来れば、彼女の銃から放たれた一直線の電撃が女の持っている記憶ドライブを灰にすることだろう。

 しかし、予想だにしない出来事というのは、いつ何時でも起こるものだ。

 女が懐から取り出したのは、記憶デバイスではなく銃だった。女はその銃の引き金を引いた。男が倒れる。男の胸には電撃が貫通し、もう息はない。死体を示すホログラムが暗視ゴーグルの画面に表示される。

 《コードネーム=フェレット》が銃を下ろした。記憶デバイスの受け渡しが行われない以上、迂闊(うかつ)に手は出せない。


Chapter.1《end》