刑法の基礎理論1 | Great Materia大学院 jurispredence(法理学科)法曹(弁護人・法学検定上級)短期養成講座

注意事項
・ここは大学院なのであなどってはいけません。
問題の質は大学院以上の議論のレベルで出題します。
・法改正には対応しません。理由は下記。

序論

刑法について語るには、
刑法理解の切り口は著者によって様々だと思いますが
私は、何の参考書も使わずに、
いつも通り(他の科目も全部そうですが)、
ただ自分の頭の中の刑法理解の構造を書いていくことになります。
それが皆さんの得点力を上げる最善の教え方になっているからです。

刑法とは、違反者に厳しい制裁を与えるものです。
この制裁には、
自由を奪う懲役・禁錮等や、
生命を奪う死刑(刑法9条)まで
刑法に含まれています。

よって、刑罰に関してのルールの運用を誤ると
重要な人権を侵害しかねません。

そこで、人を処罰するためのルールには、
約束事が設けられています。

その第一は、「罪刑法定主義」です。
ある行為を犯罪と決め、
それに対する刑罰を科すためには、
そのことをあらかじめ法律に規定しておかなければならない
という原則です。

よって、殺人や窃盗が、処罰の対象になる定めだという
ルールは、決して自明のものではなく、
山林の熊にとっては、それをすることが当然のことなのです。

前者は199条、後者は235条に
定めがあるために、
これらの行為が犯罪となり、
刑罰の対象となっています。

第2の約束事は「法益保護の原則」です。
これは、道徳的や倫理的には、どんなに悪い違反だったとしても
刑法が、保護に値すると認めた「法益」を
侵害したり、
法益を危険にさらす
行為でなければ
処罰の対象とすることは
許されないのです。
これは「法益侵害なければ犯罪なし」という標語であらわされています。
さらには、刑罰が重大な制裁であることを考えると
刑罰をもってして保護する法益というのは、おのずから限定されることになります。
たとえば、Aさんとのデートの約束をすっぽかして、
Bさんとデートに行ったとしても、
処罰に値する法益侵害があるとはいえないので、
この件について制裁するルールを定めることは
許されないのです。

第3の約束事は、
「責任なければ刑罰なし」という標語で表される
「責任主義」です。

誰かが、法益侵害をしたか、
又は法益侵害の危険を生じさせた場合であっても、
その人を刑法的に非難することができなければ、
犯罪の成立を認めることはできないということです。

古い時代では、行為者が重大な結果を起こしただけで
処罰することが行われていました(これを厳格責任主義といいます)。
しかし、不可抗力によった場合も処罰されてしまいます。
これでは、民の遵法精神が失われるので、犯罪の予防という観点からは
逆効果だとして、
現在では、行為者を処罰するためには、刑法上最低限非難するに足る
一定程度の主観的要素
具体的には「故意」あるいは「過失」
という「責任主義」
が原則になっています。

犯罪を理由として刑罰を科すルールを定めた法律のことを
(広い意味で)「刑法」といいます。
それには、ここまで書いてきた約束事を考えて
それらの整合性を検討して、
ルールの適用範囲を厳密に考えていく
学習を
これから問題演習を通じて
していきます。

刑法というものを把握するにあたって、
これは刑法総論の地図になりますが、
まず、ここまで
刑法の約束ごとをみてきました。
1.罪刑法定主義
2.法益保護の原則
3.責任主義
というものでした。
次に、刑法とは何かという
刑法の構造については、
刑法典では、総論「第1編総則」(1~72条)と
各論「第2編罪」(73条~)
という分野で構成されています。
第1編では、犯罪というものに共通する一般的な成立要件と
全ての刑罰(刑法典以外の広義の刑法にも)に共通する事項
を規定しています。
たとえば、正当防衛と緊急避難は、36条と37条ですが、
殺人にも傷害についても問題になります。
責任能力は、39条ですが、放火罪であれ窃盗罪であれ
犯罪が成立するためには必要ですから、ここに規定されています。
未遂・共犯・罪数も同様です。
刑罰に関しては、刑の種類・軽重、執行猶予、仮釈放、刑の時効、
刑の加重減刑に関する事項が定められています。
第1編に対して第2編「罪」では、
個々の犯罪の成立要件と
それに対して科される刑罰が規定されています。
第2編に規定されている罪には、
①国家的法益に対する罪
②社会的法益に対する罪
③個人的法益に対する罪
に分けることができ、
おおむねこの順番で規定されています。

刑法総論で教えていることのほとんどは、
犯罪の定義(構成要件に該当する違法で、有責な行為)
犯罪の発展形態(予備・陰謀、未遂、既遂)
犯罪へのさまざまな関与形態(共同正犯、教唆犯、幇助犯)
罪数などです。

刑法各論では、
第2編罪に列挙された個別の犯罪の成立要件の
検討を行います。

それでは、刑法の全体像をまとめてみます。

【刑法総論】の地図
刑法とは何か?
・構造…総論(第1編総則)
    各論(第2編罪)
・内容…犯罪とは何か?(犯罪論)
       成立要件
         行為
         構成要件該当性
         違法性
         責任
       応用問題
         未遂
         共犯
         罪数
    刑罰とは何か?(刑罰論)
       刑罰の本質
       刑罰の内容
・約束事…1.罪刑法定主義
     2.法益保護の原則
     3.責任主義

【刑法各論】の地図
犯罪の種類…個人的法益に対する罪
        生命に対する罪
        身体に対する罪
        自由に対する罪
        秘密・名誉に対する罪
        信用・業務に対する罪
        財産に対する罪
      社会的法益に対する罪
        公共の危険に対する罪
        取引の安全に対する罪
        風俗に対する罪
      国家的法益に対する罪
        国家の存立に対する罪
        国交に関する罪
        国家の作用に対する罪

※なお、あらかじめことわっておきますが、
この講座は、問題の解き方を教えるものであって
出題された問題の法改正があったとしても対応しません。
出題された当時の解き方で解いていきます。
なぜなら、この講義の趣旨は、国家試験合格ではなく、
悠久の未来に残していく問題解決力育成書だからです。
解決の判断が分からなければ書いてあることが〇か×かもわからないほど
人間にとって司法試験は難解なので、当時の法で裁いているのです。

では、問題を演習していきましょう。

2014年(平成26年)司法試験 刑事系科目 第1問
同年 司法試験予備試験 刑法 第1問

〔第1問〕(配点:2)
刑罰論に関する次の1から5までの各記述のうち,正しいものはどれか。(解答欄は,[№1])
1.応報刑論は,
産業革命に伴う工業化・都市化によって累犯が増加したことを契機として,
支持者が増えた。
2.応報刑論に対しては,重大な犯罪を犯した者であっても,
再犯可能性がなければ刑罰を科すことができなくなるとの批判がある。
3.応報刑論に対しては,論者が前提としている人間の意思の自由が科学的に証明されていない
との批判がある。
4.応報刑論に対しては,
犯罪を防止するために罪刑の均衡を失した重罰化を招くおそれがある
との批判がある。
5.応報刑論に対しては,刑罰と保安処分の区別がなくなるとの批判がある。

応報刑論に関しての問題が出題されています。
応報刑論とは何かというと
「犯人が犯罪を犯したために、刑罰という害悪を科すことが正当化される」
とする考え方です。

センター試験の国語の評論の文章読解ができないと解けないようになっているので
司法試験の問題を解く前に
センター試験の国語の勉強をして
論理的読解力を身につけて下さい。

回答するためには、
「知識」プラスアルファ「論理力」が必要になります。
隠された答えを導けるかどうかのスキルは、
神が人間に、神とか世界について悟れるかどうかを問うているので
この正解を導くスキルを教えているのです。

つまり、この問題の場合は
論を暗記していて、
その論の言いかえができるか、
そして、問題文で問うている論の対立が論理的に整合しているかどうかを
理解できているかという
3段階以上のステップが解答までに用意されています。
この論の対立が論理的に整合しているかどうかを判断する能力向上のために
大学では競い合うようにディスカッション(議論)をしています。

こういう問題の場合は、
選択肢が〇かどうかの判断は、
どちらの立場にも立って検討し、
合理的であるほうを選択していくものです。

1は、×です。「累犯増加」したために「支持者が増えた」というのは
「予防効果」のためといえます。
しかし、応報刑論というのは、予防効果のためにではなく、
刑罰を加えること自体が、「正義の要求にかなうため」です。
よって、1は、×になるのです。

2は、「再犯可能性」と書いてあるので、1と同じく×です。
応報刑論とは、読んで字のごとく
「犯人が犯罪を犯したために、刑罰という害悪を科すことが正当化される」考え方だからです。

3は、正解は少し難しい論理思考で出すようになっています。
応報刑論とは、
「刑罰は、犯罪という悪行に対する非難だ」とする考え方です。
これは、自由意志を認める考え方です。
「自由意志がある」から、悪いことをするわけです。その悪いことをするから刑罰を科すという考え方です。
設問では、「自由意志がある」ことに対する批判が書かれているので、〇です。
論理として通ります。
よって、3が正解になります。

4は、「犯罪を防止するために罪刑の均衡を失した重罰化を招くおそれがある」
と書いてあります。
この文は、犯罪の防止目的を強調する
「目的刑論」
に対するものです。
応報刑論は、むしろ、「刑罰の量は、犯罪の程度に応じたものでなければならない」
とする「罪刑均衡の原則」と結びつくものです。

5 応報刑論は、「犯人が犯罪を犯したために、刑罰という害悪を科すことが正当化される」
とする考え方です。
この前提から論理的に考えていくと
刑罰と保安処分の区別がなくなるというものではないです。
どうしてそうなるのかを説明します。
応報刑論は、「犯人が犯罪を犯したために、刑罰という害悪を科すことが正当化される」
とする考え方です。
すると、行為時に他の適法な選択肢を選択する可能性の存在を刑罰を科す理由にしています。
他に選択できたものを選択しなかったことを有責性にしています。
よって、責任能力がなければ、刑罰を科すことができないということになります。
よって、応報刑論においては、
責任能力がある者には刑罰を科し、
責任無能力者には保安処分を科すという区別がなされることになります。

よって、正しいものは3です。


刑罰制度
2011年 法学検定2級 第1問

正しいものを1つ選ぶ問題です。

1.刑法は、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、過料を主刑とし、没収を付加刑
として規定している。
2.懲役と禁錮では、前者が所定の作業が課せられるが後者は課せられない点と
前者では無期刑があるが後者では有期刑しかない点で違いがある。
3.罰金についても執行猶予をつけることはできる。
4.罰金を完納することができない者は、拘留に処せられる。
5.殺人行為の報酬として依頼者から譲り受けた宝石を売却して得た代金は
没収することができない。

1は、×。過料ではなくて「科料」です(刑9条)。
2は、×。前半で正しいことを言ってひっかけるパターンが多いです。
禁錮でも有期はあります(刑13条)。
3が〇です。刑法25条です。執行猶予をつけることができないのは、
罰金ではなく、
「科料」です。
4.拘留ではなく、労役場に留置されます(刑18条1項)。
5は、大事なので、皆さんは社会で生きる上で覚えておかないといけないことですが、
犯罪行為の報酬として得たものは、報酬物件(刑19条1項3号)にあたり、
その対価として得たものであるから、
同項4号によって没収することができます。

刑罰制度
2013年(平成25年)司法試験 刑事系科目 第9問

〔第9問〕(配点:4)
刑罰に関する次のアからオまでの各記述を検討し,
正しい場合には1を,
誤っている場合には2
を選びなさい。(解答欄は,アからオの順に[№14]から[№18])
ア.自由刑には,懲役,禁錮及び労役場留置が含まれる。[№14]
イ.財産刑には,罰金,没収及び追徴が含まれる。[№15]
ウ.有期の懲役又は禁錮は,1月以上15年以下であり,
これを加重する場合においては30年にまで上げることができる。[№16]
エ.有期の懲役又は禁錮を減軽する場合においては1月未満に下げることができる。[№17]
オ.懲役は,受刑者を刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる刑罰であり,
禁錮は,受刑者を刑事施設に拘置する刑罰である。[№18]

アは×です。労役場留置は、罰金刑・科料の「換刑処分」であり、「自由刑」ではありません。
イは×です。「追徴」は没収の「換刑処分」であり、財産刑ではありません。
ウは×です。有期の懲役又は禁錮は、1月以上20年以下です(刑12条1項、13条1項)。
エは〇です。有期の懲役又は禁錮を減刑する場合は、
1月未満に下げることができます(刑14条2項後段)。
これは、ウで有期は1月からだとしているので、この減刑だったら1月未満
ということになりますよね。
オは、〇です。
懲役は,受刑者を刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる刑罰であり(刑12条2項),
禁錮は,受刑者を刑事施設に拘置する刑罰である(刑13条2項)。