ピアーズは、見た目は多少怖いものの、インタビューも協力的で、時にはジョークも交えながら答えてくれました。彼は、30代前半の男性で、特に気になるような履歴もありません。

しばらくして、彼が別のカウンセラーのところへ次のリハビリの件で相談に訪れました。大抵の患者は、どこのリハビリのプログラムが楽でいいとか、場所が便利だとか、結構情報を持っているので、具体的にどこへ行きたいとはっきり言ってくる事が多くあります。ところが、私たちの施設から他の施設へ患者を送るときには、それなりの条件もありますし、また条件をクリアしたからといっても受け入れ場所が定員一杯で無理ということも少なくありません。ピアーズの行きたいリハビリ施設もまた定員に達しており、カウンセラーがそこは無理だと伝えた時から、彼はイライラした態度を見せ始めました。

何度もカウンセラーが無理だから他の方法を考えようと言っているのに、ピアーズはききません。カウンセラーが彼をなだめようとして、いろいろ話をしているうちに、たまたま彼の家族の話になりました。彼には離婚した奥さんがいるのですが(インタビューの時にはただ独身とだけしか言っていませんでした)、どうやらその奥さんに暴力を振るったため、刑務所へ入り、子供の親権も失ったそうです。たったここまで聞き出す間に、カウンセラーはピアーズに何度も、”おまえの知った事じゃない”と威嚇されていました。

刑務所に入っていたという事実も私には隠していたので、私も少しカチンときました。しかし、それ以上に呆れ返ったのは、彼があまりにも自分自身が見えていないということでした。家庭内暴力→子供の親権喪失→刑務所という経過をたどったことを、彼はとても言いにくそうで、バレてしまった後はもう言い訳に走り始めました。”僕は、子供には一度も暴力を振るったことはないし、妻だって向こうが先にしかけてきたんだ。僕は、本当にいい父親だし、いい人間なんだ。”と一生懸命周りにいるカウンセラー達に説得しているのです。ところが、家庭内暴力にしては長く刑務所にいた彼に、カウンセラーが何気なく、”あなた刑務所で何かしたの?”と言うと、”ただ、人を殺しただけだよ。でも相手だって刑務所に来るくらいだから悪い人間だし、たまたま喧嘩になって殴ったら、向こうが起き上がらなくなったんだ。結局彼はそのまま死んじゃっただけで、僕は何も悪いことをしていない!”と言い張るのです。

家庭内暴力を起こしても、自分の責任ではない。人殺しをしても、相手が勝手に死んだだけ。そういえば、彼にインタビューした時に、どうして前に施設に来てクリーンになったのに、また薬に手を出したのかと聞いたら、”だって、周りの友人が使ってて勧められたし、その時は仕事もなくてイライラしてたから...”と言っていたのを覚えています。結局、悪い結果に結びついたことは、みんな他人のせいなのです。施設の精神科医が、どうしてまた薬やアルコールに戻ったのか聞いたときに、患者が、”全ては自分がいけない”という人は、望みがあるけれど、そうではない人はまず無理だと言っていました。まず自分自身を見つめ直し、人を責める事をやめることから始まるのだと思います。そして、それは薬物・アルコール中毒者に限らず、私も含め一般の中毒者でない人にも共通することだと痛感しました。