専攻が犯罪心理学ということもあり、様々な精神障害の中でも、反社会的人格障害(Antisocial persoality disorder)を持っているという、ジェレミーがカウンセリングオフィスへ入って来た時には、とても興奮したと同時にかなり緊張もしました。

ジェレミーは40代前半、鍛え上げられた体と体中のtattoo、そして礼儀正しくも鋭い目をした男性です。今まで殺人を2回、後は数えきれないほどの傷害事件やドラッグ関係の問題を犯してきました。最初の殺人は13才の時で、同じくらいの年の友達やその友達が集まった時に、いさかいが起き、ナイフでその中の一人を刺し殺しました。まだ13才という年齢と、初犯ということもありしばらく特別な施設で過ごして、そこを出て2ヶ月後にまた人を銃で撃って殺しました。ジェレミーは、自分を馬鹿にする人や邪魔する人は徹底的に許さず、もしそういう人に出会うことがあったとして、さらに彼がナイフか銃を持っていれば相手はさっさと逃げないと命の保証はないと言います。しかし、自分の家族や女性・子供には絶対手を出さないそうです。

今まででジェレミーが受けた銃弾は合計11発ですが、彼が撃った数はその遥か上だと自慢していました。でも、彼に言わせと、数の違いはあるにせよ、自分も人を撃ったんだから、その分自分も撃たれたというのは当然で、何事も因果応報だということです。そして、彼を含め同じようなことをしている人たちの間には、暗黙のルールがあり、警察が来ても絶対に誰に撃たれたということは言ってはいけないそうです。

インタビューの中で、彼の趣味を聞いたところ、”人を切り刻むこと”、というので、適当に相づちしながらいたのですが(からかっているのがわかったので)、そうするとすぐに大笑いして、”ヤバい。こいつ、すごい狂ってるよぉ。どうしよう。って思ったでしょ?”なんて本当におかしそうに笑うのです。私が否定すると、”本当は、切手とコインの収集。集めることが好きだから。”と、意外なことを言いました。他にも、”連続殺人などを犯すやつは本当に狂ってる。自分に対して何も害がない人たちを殺して喜んでいるやつこそ気違いだ”とも熱弁していました。確かに彼の行動パターンは、いわゆる猟奇殺人的なものとは違っています。

しかし、人を殺す時の精神状態を聞いてみると、何かのきっかけで発生した怒りが頭の中で急速にふくれ上がると、もうそれが爆発すると同時に、何も考えずに相手を襲うと言っていました。もうこれはコントロールできないそうです。連続殺人犯は彼らの好みに合ったタイプの犠牲者を選ぶ事も多く(これはジェレミータイプの殺人とは違いますが)、やはり殺人を犯す時には、何かしらもやもやした鬱積するような気持ちがあったりして、それを追い払うために(コントロールできないため)人を襲うというパターンもかなりみられます。

本当は、インターンは診断をするわけではないので、聞く質問も限られたものになるのですが、どうしてもこの人格障害を持った殺人犯には、いろいろ聞いてみたくて、何度か廊下で立ち話も試みています。周りの目もあるので、多くは聞けませんが、いくつか気になる事を言っていました。まず父親がものすごく暴力を振るう人で、6才の時には首を銃で撃たれたそうです。幸い弾は貫通したらしく、しばらく入院しただけで済んだのですが、今もし生きていたら殺してやると言っていました。さらに、父親はアル中だったそうで、どんなに自分が落ち込んだりやけになったりしても、お酒だけは絶対に手を出さないということです。彼はトラウマ的な経験を否定していましたが、これはかなりのトラウマだと思いました。

これは授業でもよく教授が強調していたことなのですが、反社会的人格障害を持った人は、チャーミングな人が多くいます。ジェレミーにしても、見た目は怖い感じですが、私があるとき、部屋に閉じこもった非協力的な他の患者に手を焼いていると、”大変だね。でもここはアメリカだから、言うことを聞かないようなやつは思いっきり引きずり出してでも、言うことをきかせなきゃ”なんて心配そうな様子でアドバイスをしてくれました。”じゃあ、私の代わりに引きずり出して来てくれる?”と頼むと、すごくはにかんで、”それは、やっぱりできないなぁ。”なんて言っていました。

でも、こういったチャーミングさというのは、危険と紙一重ということも知っています。私の働いている施設ではありませんが、実際に、殺人犯をカウンセリングしていたある犯罪心理学者の女性は、心を許したときに患者の男性にみごとに殺されたという事件もあり、これは稀なことではないのです。私もそこを意識的に気を付けようと、毎日自分に言い聞かせています。