必要最小限の音量で楽器を鳴らすことの意味
どうもトランペットという楽器は「大きな音のする楽器」という固定観念が非常に強い気がします。ラウドに吹くのは簡単ですが、ラウドに吹くと吹いているフレーズがガサツというか荒っぽく聴こえてしまうんです。ジャズトランペットについて言えば、ダイナミクスのデフォルトはmpくらいだと考えています。マイルスのあの繊細なミュートのプレイは大きな音でできることではないですし、リー.モーガンがジャズメッセンジャーズのMoanin'のテーマの冒頭で吹いているのは非常に抑えたものです。だからこそサビのところやソロの冒頭が引き立つのです。
翻ってトランペットのエチュードやメソッドを見ると、ハーバート.クラークの本には「最小限の音量で可能な限りリピート」と書かれており、キャット.アンダーソンのSilent Gはやはり最小限の音量でできるだけ長くロングトーンと書かれています。ラファエル.メンデスのyoutubeの動画にはMexican hat danceをワンブレスで吹き切る映像があります。共通しているのは必要最小限のエアで綺麗に楽器を鳴らすこと、なんです。クラークのエチュードには、「正しい吹き方ができていれば力むことなく楽にできる」といった旨のことが随所に書かれています。力技じゃないんです。全ての楽器に共通することは「無駄な力を抜いて共鳴体を綺麗に鳴らすこと」です。そこを体得することが楽器の演奏をすることの極意なのだと感じます。師匠のエディ.ヘンダーソンはクリニックの中で「音楽は自己のプレゼンテーションなので、のべつラウドに吹いて『怖い』印象を与える演奏をするのは果たして良いことなのか?」という話をしたことがあります。ダイナミクスを味方につけて、非常にソフトな音で繊細な表現ができることは非常に大切なのです。大きな音とうるさい音は違うし、小さな音とショボい音は違います。スタン.ケントンに在籍したトランペットのMike vaxは「Wall of Sounds」と形容されたケントンのバンドの音の迫力は素晴らしかった。それと同様に非常にソフトな音量で演奏しているのもまた同じように素晴らしかった、と語っていました。この辺りの認識が、日本で音楽をやっている人(非クラシックな現場で特に)に多いのではないかと実感します。ピアニシモで演奏できてナンボなのではないかと思います。