西洋音楽理論におけるバグとその解決方法 | music-geek

西洋音楽理論におけるバグとその解決方法

時々書いていることですが、ユーラシア大陸の民族音楽はすべてモーダルな音楽なのです。どのスケールを選択するかで地域性が大体確定します。ヒマラヤより東では5音音階が主流で、インドから中近東にかけては微分音を含むラーガやマカーム、シンズなどがあり、ヨーロッパに入ると7音スケールが主流になります。我々が基準としているいわゆる西洋音楽はイタリア、オーストリア、ドイツ辺りの民族音楽がアカデミックに発展したもので、基準になるスケールはダイアトニック、すなわちピアノの白鍵です。7音スケールです。しかし、記譜は2の累乗ベースになっています。4/4を基準に考えると、1小節を8分音符で分割するとスケールが1音少なくなります。西洋音楽の暗黙のルールとして「拍の頭にコードノートが乗る」というのがありますが、スケールを8分音符で上昇で弾くと、Cメジャーを弾いているはずなのに2小節目はDm7になってしまいます。下降で弾くともっと酷くて最初の1小節目では拍の頭にくる音がDm7の構成音です。つまり、Cメジャースケールでありながら、下降音形で8分音符で弾くとCmajにならないのです。だからクラシック音楽では下降であれば最初のCの音を4分音符で処理するのが普通です。拍の分割が偶数ベースなのにスケールが奇数だからこうした不具合が起きてしまいます。

 

ならば1音プラスしてしまえば8音スケールとなって4/4であれば常に小節の頭にルートの音がくるようになりますよね。

Cmajのコードノートを拍の頭に乗せるにはG#一択になります。これをおくことによってスケールを上昇で弾いても下降で弾いても常に拍の頭に来るのはC,E, G, Aになります。クラシックでのトニックコードがC6add9であることを考えても極めて納得できます(グレン.ミラーなどを聞くとわかりますが、ビバップ前のスイングビッグバンドのアレンジでもトニックコードはC6add9でした)。このダイアトニックにG#を加えたスケールをジャズの理論では「Bebop Tonic Scale」と呼ぶことがあります。G#が加わることでC Ionianとは異なるモードになっています。しかし、ビバップの巨匠、バリー.ハリスは「ビバップスケール」という言葉を一切使いませんでした。「ビバップスケールなどというものは存在しない」と彼は口を酸っぱくして言っていました。実際、彼のワークショップの管楽器のクラスではメジャー、マイナーという2つのスケールしか説明しませんでした。そしてピアノのクラスでは彼は

「Six Diminish」という言葉を使いました。つまり、C6を構成するC, E, G, AにディミニッシュであるD, F, G#, Bを組み合わせたものである、と。ディミニッシュにはF,Bが含まれるのでそこにはG7が暗示されるのですが、このスケールをアルペジオで弾くとC6と4つのDimコードだけになります。つまり、ダイアトニックでは7つのコードが生成されるのに対して、トニックとドミナントだけになってしまいます。管楽器奏者から見るとトーナリティに対して非常にフラットに見ることができますし、ピアニストはディミニッシュが2つのトライトーンで構成されることから8トニックを睨むことができるので、非常に柔軟なコードヴォイシングが可能になる、ということなのです。ビバップとは8分音符のフレージングで拍の裏にクロマチックを挟み込む手口であり、フレージングに応じて自在にクロマチックを挿入できるので、G#を挟み込んだものをビバップトニックとすることは正しくないのです。

 

ダイアトニックのバグ回避としてクロマチックな経過音を挟み込むことはバロックの時代から使われていた技法ですが、それについて定義する言葉はなかったように思われます。ビバップ期にトライトーンサブスティテューションによって柔軟なコードワークが可能になった時代に研究されたものをバリーさんが「6th diminish」という言葉で纏めたのではないかと思われるのです。いわゆるクラシックの西洋音楽理論は長音階についての規則について書かれており、案外短音階について書かれていないように感じられます。ジャズの和製のセオリーでは短音階の機能性が分析されたことが尊いと感じているのですが、これは次の機会に書きます。