Hermeto Pascoal
ブラジルの巨人、エルメート.パスコアルが亡くなりました。外見的に年齢不詳な感じの人だったのですが、父の一つ下だったのだと知りました。この人に最初に捕まったのは20代の中頃で、確かサッカー中継か何かの音声にハモをつけたやつだったように記憶しています。全部音にしようとするメシアンのような技法よりも断然に面白かったのです。なぜそのアルバムを買ったのかはもう記憶にありません。キワモノっぽいけどチェックしておこう、くらいの気持ちだったかもしれません。音楽の理論自体はいわゆる西洋音楽ベースに比較的忠実でありながらあらゆるものや動物の声やあれやこれやを違和感なく音楽の中に取り込んで成立させる感覚は唯一無二のものでした。インプロヴァイズな要素もなくはないけど、基本にはものすごく譜面の多い音楽であったようにも感じられます。個人的にはあらゆるものを詰め込んだハチャメチャなトラックよりも内省的な音楽に惹かれます。ソロピアノのアルバムはその典型。また。マイルスのLive-Evilに収録された3曲も魅力的です。このアルバム、セラードアでのライブ音源ばかりが語られますが、私はエルメートとのスタジオ作品の方が好きです。この3曲はマイルス名義なんだけど、音楽は完全にエルメートの音楽で、エルメートの掌の上にマイルスが載っている感じです。マイルスの作品では参加したミュージシャンがインスパイアされて「マイルスの音楽の一部」になるんだけど、これだけは全然違うんです。マイルスを喰ってしまう圧倒的な個性があったということではないかと(ハンコックやショーターはブラジル音楽とも交流したけどマイルスはそれをしなかったというのも興味深くはあるけれど)。幸運にも生前に一度だけ生で見ることができました。私はこういう性分なので、その現場でもそこで演奏される音楽を分析しながら聴いてしまうのですが、実にハッピーな音楽でした。こんな人もう二度と出てこないだろうなぁ、と感じます。