トランペットを吹く時の顎の役割について考える(2) | music-geek

トランペットを吹く時の顎の役割について考える(2)

トランペットの奏法について長年独学であれこれと探っています。幸いにもこの25年ほどの間にアメリカのジャズトランペッターを中心にかず多くの人のクリニックに参加したり、カルーソーやゴードンに長く習った日本人の方にも話を聞き、ヨーロッパのクラシックの名手からも何人かから直接話を伺うことができました。海外留学/居住をしないでこれだけ多くの方々の話を直接伺えたのはラッキーだったと思います。その中で最も印象的だったものの一つがLAの名人、Carl Saundersのものでした。曰く、「ソロを吹くのに上から下までのレンジを満遍なく吹くと顎が疲れる」と。顎の使い方について語る人は今まで見たことがありませんでしたし、有名なエチュードにもほとんど何も書かれていません。6-7年前にイタリアのAndrea Toffanelliと話した時に彼とアルマンド.ギターラとのエピソードが滅法面白く、ギターラがコステロ=スティーブンスメソッドを信奉していた(キャット.アンダーソンもそうだったらしい)ということからメソッドを買って読んでみると顎について詳細な記述がありました。カールは独学だから読まずに体得したのかもしれないけど、彼が書いていることとコステロのそれには共鳴する部分が結構あります。そうしたことを考えていたらネット上でイギリスのPaul MayesがTRL(Top Lip Relaxed)というのを提唱してました。しかもラッパを始めたばかりの自分の息子にそれを試させて6週間でハイノートが出せるようになってました。楽器を鳴らす時の振動の主体は上唇だし、アンブシュアを構築する体のパーツで動かせるのは舌と顎だけです。とすれば、上唇に対する過剰な力を分散させるための顎の役割は非常に大きいと思えるのです。それはペダルトーンを出す時にjaw dropさせることからも明白なのです。

 

考えてみると、ほとんどの楽器は「持たずに支える」ものがほとんどです。ギターやベース、ヴァイオリンなど、演奏するためには両手が自由でなくてはなりません。木管楽器も運指があるから支えるけれど持つことはしません。でもトランペットだけはナックルとフィンガーフックでがっちり「握って」しまいます。握ることで力みも生じます。ではトランペットを支える、とはどうしたら良いのでしょうか?

私の今の考えでは、下顎と左手の人差し指の2箇所で支えて音域によってコントロールする、が理想なのではないかと。で、自分で試したら想像通り、唇の負荷はさほど大きくなく自然に上から下まで満遍なく鳴らすことができることが確認できました。まだ慣れてないので長時間これをキープできませんが、無理なく自然に管体を鳴らすことができていると思います。ちなみに顎を動かすと言っても非常に微細なものです。コステロには1/4インチとか1/8インチとかいう表記がありますが、1/8インチって0.635ミリにしか過ぎません。でもこれはトランペット好きにとって極めて大きい数字であるのはボアサイズやマウスピースの口径、スロート、バックボアを考えたら明白です。私は大雑把なのであまり意識しませんが、みんな0.1ミリの世界で喧々諤々してますよね。コステロが書いたことは多分正解なのですが、イラストでの動きが極端に見えすぎたりするので割を食ったかもしれません(クラークのノンプレッシャー奏法という言葉もそういう面が大きかった)。

 

まだ断定的に書くことは控えたいと思いますが、鳴らすコンディションを調整するための顎の役割はもう少し深掘りされて良いと考えていますし、もう少し自分で確認したいと思います。カールが自分のHPに書き残しているのが実に素晴らしいです。亡くなって1年半近く経つのにおそらくは誰かが維持してくれているのだとは思いますが、いつ消えるかわからないので魚拓取ることをお勧めします。