これで決着か? | music-geek

これで決着か?

金管楽器から初めて音を出したのは多分6歳でした。父親のトロンボーンでした。音が出たのを自分が相当喜んだらしく、小学校1年の時のクリスマスプレゼントがトランペットでした。通っていた小学校の吹奏楽部の顧問の先生が素晴らしい指導者で、TBSのこども音楽コンクールは東日本大会の常連校だったと記憶しています。高校でラッパを再開し、大学からジャズを始めたけれど、子供の頃から今に至るまで特定の先生について習ったことが一度もありません(スポットで教えてもらうことが大半。クリニックはアメリカでたくさん見ました)。ジャズのアドリブも全く独学。幸いなことに覚えるくらい聴き込むと採譜しなくても吹けることが多かったので、これまた独学。インプロヴァイズについてはエディ.ヘンダーソンとバリー.ハリスに多くを教わりました、

 

奏法については常に(今でも)問題を抱えています。それは「高い音」。カーマイン.カルーソーを使ってもなかなか効果が出なかったのですが、それはエアの使い方が上手でなかったことをクラウド.ゴードンに長く師事された杉山正氏のタングマジックのテストコースで修正のきっかけをつかみました。ウィンドパワーとコントロールはゴードンの本が有益でした。クラークのテクニカルスタディもやっていましたが、8年くらい前にボストンのTony Lujanがキャット.アンダーソンにレッスンしてもらった時のレジュメをシェアしてくれました。ここにいわゆるSilent Gが書いてありました。クラークもアンダーソンも「最小限の音量でできるだけ長く」吹くことが共通していました。なので、フィンガリングに神経を使わないで一音に集中できるキャットのやり方を取り入れました。このSilent Gは昔.ウィントン.マルサリスが横浜でやったマスタークラスのQ&Aセッションで「音色をよくするのに効果的」と言ってたのだけど、その理由は言ってくれなかったので長年謎でした。キャットのメソッドと映像で見たラファエル.メンデスのデモンスとレーション、そしてカール.サーンダースからのアドバイスであった「最小のエアで最大の効率の仕事をしなさい」というのがアンダーソンやクラークのエチュードと通底していることに気づきました。なので、キャットのSilent Gについてはワンブレスで1分のロングトーンという設定にしています。

 

ハイノートにはペダルトーンが有益、というのは昔から聞いていました。でもやり方もその理由も誰もはっきり書いていません。多くの人がjaw dropというので試したらどうも上手くいかないというかダブルアンブシュアみたいになっちゃうんです。この時は楽器のポジションはそのままで顎だけ下げる感じでやっていました。いつそれに気づいたか忘れましたが、顎を下げる時に楽器ごとjaw dropする感じでやったら上手くやれるようになりました。楽器を吹いている時に顔面の中で動かせるのは顎だけだから、顎を上手に使ってバランスを取れば良いという気づきがありました。実はカールが顎のコントロールは大事ってよく言ってくれてたのですが、その意味がつかめた感じでした。チャーリー.ポーターが動画で「ペダルトーンは倍音列の基音」と説明してくれてたことも大きく腑に落ちました。ペダルについては自分の中でこれ、という確信が持てました。

 

7年くらい前に、イタリアの名人、アンドレア.トファネリと長く話す機会がありました。彼がアルマンド.ギターラにアンブシュアのヒントをもらった時のエピソードが非常に納得できたこと、ギターラはスティーブンス=コステロメソッドの信奉者であったことからこのメソッドに俄然興味が湧きました。日本では20世紀後期のラッパのエチュードやハイノート系のメソッドといえばマジオ、ゴードン、カルーソーが主流でコステロの情報は皆無でした。なのでネットで本を取り寄せて読んでみました。色々細かいことが書いてありますが、顎の使い方について具体的に細かく書かれているものは初めて見ました。カールは独学でしたが顎の使い方についてはかなり共通した部分が見られます。上唇の振動を効率よくさせるために顎でコントロールして上唇のベストな振動状態をコントロールする感じです。トランペットはフィンガーフックがあるので、上唇に簡単に圧力をかけられますが、古いコルネットにはフィンガーフックはついておらず、ここからも上唇に過剰に力をかけて吹く方法は正しくないと推測できました。「上唇に過剰な負荷をかけずに吹く」ことが確信になりつつあったのですが、これを決定づける映像がイギリスから出てきました。Paul MayesのTLR(Top Lip Relaxed)がそれです。彼は自分の息子にこれを実践させることで2ヶ月くらいでダブルCくらいまで鳴らせるようになっていく過程も上げていました。溜飲が下がりました。

 

この数年は楽器の持ち方についてもあれこれ試行しています。気が付いたことは「ほとんどの楽器は両手を自由に動かせる状態で支えているだけ」ということでした。弦楽器は左手でフレットをコントロールして右手で弾くし、木管楽器の多くはストラップで支えて両手で運指をコントロールします。「持ってない」んです。では金管楽器はどうか?右手はフィンガリングに特化させているので持つのは左手一本です。ではどう持つのか。ナックルの構造上どうしても「握る」イメージがありますが、クラークにしろ誰にしろ「力むな」と言っています。握ったら力んじゃうんです。他の楽器と同様に「支える」にはどうするべきなのか、と考えてみました。今の時点での私の考え方は「下顎と左手の人差し指で支える」です。握らなくて構わない。この2箇所を支点としてアンブシュアをコントロールすれば無駄な力をかけずに楽器を吹くことができる、というのが現時点での自分の考え方です。まだ試し始めたばかりで耐久性などチェックするポイントはありますが、楽器の鳴り、音色を考えるとおそらくこれがゴールなのではないかと漠然と考えています。

 

特定のメソッドを過信せず、常にフラットでニュートラルな姿勢で可能な限り原典を当たるという姿勢で独学で50年もかかってようやくここまできました。これが正解であることを祈りたいです。