非クラシックの音楽の音量について考える。 | music-geek

非クラシックの音楽の音量について考える。

まぁいつも書いてることですが、個人的には日本の非クラシックな音楽の音量は大きすぎると思っています。もちろん各楽器の奏者がデフォルトに設定している音量も欧米よりラウドだと思いますし、ライブハウスなどでなんとなく普段からPA使う、って感覚がそもそもダメな気がします。そもそも昔からあるアコースティックな楽器の生音がベースとしてあるわけです。それにソリッドのエレキベースとかエレキギターとかエレクトリックキーボードのようにアンプで電気的に増幅をしないとバランスできない楽器が加わっていったわけですが、その音量は生の楽器の音量とバランスさせることが大前提なはずです。録音を聞けばわかりますが、ジャズやロックでこうした楽器が導入された黎明期のサウンドのバランスはそういうものでした。ところがいつの頃からかわからないけれど、PAシステムを使って全部の楽器の音をマイクで拾ってバランスさせてでっかいスピーカーから出す、ってのが普及しました。音楽の魅力というのは、たとえそれがアンプで増幅されたものであっても、複数の楽器の音が空間で混ざり合って響くところにあるというか、それが重要だと思うのですが、PAを通してステージ左右に積まれたスピーカーから出る音だとそういう響きが失われるんです。クラシックのオーケストラを見ればわかりますが、結構でかい音がするので、それを電気的に増幅させるとそれは聴衆に対して「音の押し付け」になっちゃうんです。百歩譲ってテクノやレイヴみたいに音圧があればこそ表現できる世界ってのはあるかもしれないのですが、そういうのって例外的だと思うのです。むしろアコースティックな編成であれば生音の方がピアニシモを絞り込めるので、より繊細な表現が可能になります。そうした面が完全に忘れられてると思います。以前小野リサさんのバンドに参加させてもらったことがあります。このバンドは彼女のあの歌い方にバンドサウンドを合わせていくので、ラウドに吹くことはほとんどありません。柔らかく吹いてバランスしているものをPAを使ってバランスを保ったまま会場に見合った音量にしていくわけです。8000人くらい入るアリーナであろうがなんであろうが常にリハーサルと同じようにソフトに柔らかく吹いていました。ステージの中音も爆音になんてなりません。恐らくはメジャーになればなるほど爆音というかPAあることが前提の現場になってしまうので、日本でトップクラスの仕事をしている人たちでもそもそもの楽器の音量とバランスが見失われてしまうのではないかと思えてならないのです(ロン.カーターがエリック宮城さんのビッグバンドにゲストで参加した時のエピソードは象徴的でした)。ポップス系の仕事をしている人から「中音が爆音すぎて自分のやってることがよくわからない」ことがあったり、爆音すぎて耳がやられちゃうから「耳栓して演奏する」とか、本末転倒もいいところだと思えてなりません。ジャズドラムのレジェンドの一人であるメル.ルイスが当時若手だったドラマーのケニー.ワシントンにこういうアドバイスをしたそうです。曰く

 

「もし君が演奏していて全員の音が聞こえていないのであれば、それは君がラウドすぎるので君の問題なんだよ。もし全員の音がクリアに聞こえているならば、そのバランスはバンドスタンドの中でも会場でも同じなんだ。そしてこれはカーネギーホールであろうが場末のレストランであろうが同じことなんだ。」

 

と。

 

これがアメリカのビッグバンドにおけるサウンド構築の基本なんです。電気的増幅は最小限。私は5年前にNYCでバリー.ハリスのラージアンサンブルのリハーサルに参加したのですが、ビッグバンド+コーラス+ストリングスという編成で誰もアンプを使わずに見事にバランスしてる現場で音を出すことができたのですが、これがバリー.ハリスのデフォルトなのです。メルの言ってることとも共振しています。ピーター.アースキンもケントン時代にジーン.ローランドから似たようなアドバイスをされたという話も本人から直接聞いています。ミンガスビッグバンドも生音だという話を聞いていますし、90年代後半にNYCで何度となく見たマリア.シュナイダーもほぼ生音でした。あ、そういえば随分昔にアンプまでオリジナルのフェンダーローズを使ってハービー.ハンコックの音楽をやったことがありました。ローズの持ち主から「真空管アンプなんで音量あげすぎると音が歪むから」って言われたので歪まない音量をベースにしてサウンドを作ったのですが、これがものすごくいい音だったんです(データ飛んじゃったのは一生の不覚)。

 

私は自分が仕切るバンドでは7年前からベースを生音にしているのですが(ギターはアンプで増幅しないと管楽器の音量とバランスできない)、5年前のバリーさんのところでの経験はそれを確信に変えるに十分でしたし、生音のアンサンブルで演奏しているとお客さんから「聴き疲れしない」というコメントをよく頂きます。言い換えると大半のジャズのライブは「音の押し付け」になっているんだな、と。そんな演奏はしたくないな、と。ということで去年自分のビッグバンドで初めてベースも生音でやってみました(10人編成までは生でやってました)。それが添付した映像です。ちゃんとバランスしてますよね。これ、できるんですよ。だから8月のビッグバンドのライブもできればベースも生音でやりたいと考えています。だってこれが向こうのレジェンドたちのデフォルトだからです。多分これはジャズもロックもほぼ同じはずです。8/6のライブで生で体感してくれると嬉しいなぁ、と思います。だってあの音の感じは生でないとわからないんです。録画してアップしてるけど、それはすでに「録音されてみなさんの家のスピーカーから出る音」だからです。