音楽のジャンルの違いは方言の違いのようなもの | music-geek

音楽のジャンルの違いは方言の違いのようなもの

日本のミュージシャンからはほとんど聞いたことがないけど、アメリカのミュージシャンの中で"Musical Dialect"という言葉を使う人を見たことがあります。よく覚えてるのはドラムのピーター.アースキン。2012年にボブ.ミンツァーで日本に来た時に一緒に来てたトロンボーンのMichael Davisにインタビューのビデオ撮影を頼まれて1時間ほどの撮影をした時にその話をしてました。確かに音楽のスタイルやジャンルの違いは方言によく似ているように思えます。

 

最近はあんまり言われなくなったような気がしますが、昔は「クラシックの人にジャズは吹けない」とか「ジャズの人はクラシックが吹けない」なんて言われてたものでした。確かにモーリス.アンドレがジャズを吹いてるのはリズムセクションはジャズだけどジャズっぽく聞こえません。同じジャズでもルイ.アームストロングとディジー.ガレスピーでは全然違います。スキャットを聞けばわかりますが、サッチモもディジーもスキャットの発音が全然違ってて、楽器でもそれと同じことをやってるだけなんです。スタイルによって発音やアクセントが違ってくるんです。つまり、関西言葉を知らない俳優さんの関西言葉のナレーションを聞いた時に感じる違和感と同じものが音楽でも起こってしまうんです。ジャズのソロをトランスクライブして譜面通りに吹いてのオリジナルと全然ニュアンスの違うものになってしまうということであれば、それはアーティキュレーションが違うということになります。今ではウィントン.マルサリスみたいにクラシックとジャズの両方できる人も出てきていますが、それはアーティキュレーションの切り替えがちゃんとできてる、ということなのです。

 

日本人でジャズの知識のない人が吹奏楽でジャズ的なアレンジの譜面を演奏すると盆踊りになっちゃうのはタンギングの仕方が違うからです。つまりシングルタンギングの"T"の発音が日本語と欧米言語では違うということです。それはさっき書いた

 

「方言を知らない人の方言による語りに感じる違和感が音楽に出る」

 

ということに他ならないのだと思います。

 

この問題は管楽器に顕著な問題です。管楽器の中でも特に金管楽器とフルート、すなわち演奏している時に口の中が自由になっている(リードをくわえる楽器は口内の形が制約を受けるのでさほど大きな差は出ない)楽器では非常に大事な問題になります。英語での子音の発音は日本語よりも種類が多く、シングルタンギングの"T"ですら違いがあります。この辺りをきちんと認識して演奏しないとラージアンサンブルでは浮いてしまうのではないかとさえ思えますし、日本人で海外で活躍している演奏家の大半が管楽器以外、すなわち楽器の「タッチ」のコントロールだけでいける楽器であることとも関係あるような気がしています。私自身は昔バリー.ハリスのワークショップが東京でもあった時代にバリーさんからアーティキュレーションは彼をお手本にしなさい、みたいなことを言われたことがあるんですが、それは参加者が全員日本人でその中で多少マトモだった、ということだけなのかもしれません。アーティキュレーションの問題は自分にとって大きな研究テーマの一つになっていて、この数年は音声学の本も読みかじったりしています。アメリカン.ネイティブ.イングリッシュで発音する感覚と同じ感じでジャズを演奏したい、音楽の現場でカタカナイングリッシュは絶対にやっちゃダメ、という意識を常に持っています。もちろん「日本人のジャズ」ってのもあるでしょうが、日米混在なジャズの現場の中で日本人が浮く、みたいなことは回避したいのです。