横隔膜は動くのか? | music-geek

横隔膜は動くのか?

楽器をやっていると大抵呼吸の話になる。腹式呼吸とか色々言われるし、「横隔膜」がどうしたこうしたなんてことも良く言われている。空気という見えないもの、呼吸という体内でどういう動きになっているか見えないものであるが故に実に様々な意見が出ているが、私としては「横隔膜を使う」とかいうのはおかしいと思えてならないのです。

そもそも横隔膜って何なんでしょう?腹膜と一緒で、ありていに言ってしまうと内蔵を包んでいる袋の上部ですね。グロテスクな話で恐縮ですが、戦場で腹部を撃たれて腹膜が破れちゃうと内蔵がそこから飛び出してしまうなんていうのを小説で見たことがあります。「膜」であって筋肉ではないですね。つまり、横隔膜は内蔵を安定して配置させておく為の袋であると思われるのです。もしこれを呼吸の為に自由に動かせるのであれば、肝臓とかが圧迫される、とか、食べたばかりだと胃から食べたものが逆流しちゃうとか大変なことになるのではないかと思うわけです。また、この膜を百歩譲って筋肉だと考えたとしても、筋肉には随意筋と不随意筋があり、横隔膜は当然後者なわけです。不随意筋っていうのは自分の意思では動きませんね。だから、横隔膜を使った腹式呼吸みたいな説明をされる方がいらっしゃるのであれば、それは大ウソです。

空気というのは肺にしか入らないわけなので、お腹というのはあくまでエアを取る為のイメージなんだと思います。数年前にセルゲイ.ナカリャコフの公開レッスンで質問してみたところ、「肺の中に大きな酒の瓶があるとイメージして、それを底の方から一杯にして行くようなイメージ」と彼は答えました。あくまでイメージなのです。

楽器を吹く、というのは、つまるところ、自分の持っている呼吸器官の能力と効率を最大限に活用する、というところに行き当たるわけです。肺活量は関係ありません。だって足りなかったら循環呼吸で凌げるでしょう。エアを効率よく十分なスピードで出す為には腹筋よりも背筋の方が大事でしょう。

横隔膜とかお腹、をイメージする呼吸っていうのは必ずしも正解ではないような気がします。私は近年クラウド.ゴードンのシンプルで明快で説得力のあるな物言いに非常に影響を受けているのですが、日本には(多分世界中でも)、楽器を吹くことについてのよく分からない迷信みたなものが沢山あるように感じられます。「気合いと根性」なんて絶対にウソです。でないとスヌーキー.ヤングが80過ぎても片手でプランジャーミュートを使いながらハイAまで持って行ったこととか、ドク.チーサムが90歳過ぎても現役で吹いて、しかもハイDくらいまでは何の問題もなく使えていたことが説明できないからです。

金管楽器というものは3つのバルブもしくは7つのスライドポジションを使い、倍音を活用しながら演奏するので、ピアノやギターや木管楽器と違い、視覚的に音を捉えることが出来ません。呼吸という体内で行われる見えない行為と相まって、金管楽器というものを演奏する方法については、見えないことを推測で語った結果生まれる(最終的には同じことを言ってたりすることもあるのだが)迷信が多いように思えてなりません。

「横隔膜」はそのなかでも一番誤解されているものだと思いますね(笑)。