「正しい装飾音奏法」(フレデリック・ノイマン著 為本章子訳)より 続き

 

17世紀には3連符での♩♪の音型は時折現れ、J.S.バッハも2度ほど使用しているが、19世紀半ばまで一般的に使用されてはいなかった。それまでは、桁の掛かった付点8分音符と16分音符の組み合わせで補うこともあった(16分音符の位置が3連符の最後の8分音符と同じ位置等)。

 

序曲に関して、クヴァンツ曰く、付点8分音符や付点16分音符に後続する音符は、活気ある表現を得るためにできるだけすばやく弾かれねばならない…早い音符の短縮(過重付点でも、同時奏法でも無い)

過重付点は、華麗様式style galantの時代のドイツにおけるマニエリスムスがかった一般的な音楽的実践だった。フランス様式とは無関係。

ヘンデルもバッハもモーツァルトも、付点を正しく付け、丸みを帯びた旋律線を要求する人声は慣用的に書き、それに対して楽器をより鋭く付点化し、楽しげなリズム感を妙味で添えるようにしていた。

 

不等音符は17世紀からフランス革命の頃の時期に至るフランス音楽の統語法(シンタックス)の一部であった。 1)不等音符は適用にあたり、拍子と音価の相互関係に基づく厳格な法則に規制された。またその適用は、本質的に順次進行の動きが要求されているかどうかにもかかっていた。8分音符は3拍子、2拍子、2/2拍子で、16分音符は4/4拍子で不等音符になるなど。不等音符が楽曲に適用されるときは、細分された拍が常に軽快なリズムで揺れ動く。 2)不等音符は、イタリア様式のソナタやコンチェルト以外の、あらゆる種類のフランス音楽で使われる。 3)不等音符は不等が緩やかなものが優勢を占めた。

 

クヴァンツ曰く「フランスでは例えばブーレ、アントレ、リゴードン、ガヴォット、ロンド等々のような種々の舞曲この2拍子を使用している。ルレ、サラバンド、クーラント、シャコンヌなどの3/4拍子と同じくこの拍子でも、付点4分音符に続く8分音符は譜面通りの長さでは無く(nicht nach ihrer eigentlichen Geltung)、きわめて短く鋭く奏されるべきである。付点音符にはアクセントが置かれ、付点の部分では弓は弦から離される」 即ち、入りを遅らせるわけでは無く、拍上でのアクセント付きの鋭いアーティキュレーションを示唆している。入りを遅らせてしまうと、舞曲としてステップが成り立たない。但し、付点や休符後の三つまたはそれ以上の32分音符等の音階状のティラード(tirades)においては、合奏上、音価のごく末尾でできる限り素早く奏されるべきである。グリッサンドの装飾効果であるため。

 

ヘンデルの手稿譜からは、過重付点も同時奏法も使われていないことが分かる。

 

バロックとプレクラシックの時代に、独奏者たちが絶大な事由を満喫したことは議論の余地が無い。作曲家たちはその自由をしばしば気軽に認めていた。しかし、オーケストラ演奏は全く事情を異にした。独奏者がスコアの記譜通りに奏するとは予期されていなかったり、あるいは実際事も無く変えて奏したのに対し、オーケストラ奏者や合唱団員はそういうわけにはいかなかった。