「正しい装飾音奏法」(フレデリック・ノイマン著 為本章子訳)を返却する期日が迫ってきたので、備忘録として。

 

・クヴァンツはフランスの奏法様式を取り入れみてはどうか、と単にほのめかしたに過ぎない。

 

不等奏法(inègales)…フランスの慣習に貸してのみ適用 16世紀半ばに、等しい音価で記譜された音符を等しくない長さで奏することを記述している資料がある。 記譜された付点音符型は別物である。

不等奏法に適った音符は、本来順次進行(跳躍進行する旋律には用いられない)で、拍子記号の分母の数字によって表示される基本的な拍単位を分割する一対の音符。1)概して2拍子系では一つの拍単位を四つに分割した後に初めて不等奏法が適用される。2)概して3拍子系では拍単位を二つの部分に分割した場合に適用される。3)4拍子系で(基本拍を分割する)第1次分割は正確に奏されるべき。等音符(notes égales)

不等奏法は長・短である。不等音符の長い方は拍上にくる。

 

ルレ(lourer)…差の少ない長・短の不等

ピケ(piquer)…差が著しい長・短型

クレ(couler)…流れる、スラーのかかった音符、流れるように音符を結合させる装飾音(agrément)

 

不等な程度は様々だが、それを決定するのは演奏者の音楽的趣味である。趣味(goût)は常に演奏解釈において最高の裁き手であった。ルレはわずかな不等、ポワンテ(pointer)とピケはもっと大差の付いた不等を示唆する。

この慣習はフランス音楽のみに適用される。ルリエの理論書(1968)「以下夏種類の外国の音楽も、はっきり記譜されていない限り、音符が付点化されることは決して無い」。

 

コレット(1709-95)曰く、「(4/4において)ソナタとコンチェルトのアダージョ、アレグロ、プレスト所謂イタリア由来の曲種では不等奏法は適用されない」。即ち、フランス音楽でさえ、他国の手本に従って様式化されている場合、典型的なフランスの不等奏法の対象から外される。

 

不等奏法は、多声よりもホモフォニックなテクスチュアに支えられる旋律線を、演奏者の良き音楽的趣味により、もっとも自然な居住地として心得ている。独奏(唱)者による使用が前提。最も合法的な分野は、オルガン、ハープシコード作品、アリア、歌曲および器楽独奏曲。

 

作曲家による不等奏法撤回の指示 1)等音符(notes égales)または等8分音符(croches égales)など。 2)デタシェ(détaché)、マルケ(marqué)、マルトレ(martelé)など音符上の付点またはダッシュのような音符を分離させる奏法を要求する表示は、不等奏法を解消させる。

 

スラーのかかった最初の音に付けるアゴーギクの強弱法のアクセントは、アゴーギク・アーティキュレーションと呼ぶことも出来るものであり、特定の時代様式に限定される物では無い。L.モーツァルトの記述内容は、独立した原理。

不等奏法は、J.S.バッハの時代のドイツにおいては、生きた慣習ではなかった。