「へぇ…なんだか不思議だね」

そう言って、オレ達四人を見渡す視線は思いの外優しかった。

「火影様はサイのいる七班しか知りませんもんね」
「うん。でもなんとなく似てるね、髪色とか雰囲気とか」
「サイ…アイツ、か。腹出してるヤツだろ?」
「ははっ、たぶん会ってるってばよ」
「ところで、今日は何の御用ですか?」
「うむ…よくぞ聞いてくれた」

ゴホンッと咳ばらいをして、さっきとは打って変わった鋭い目でオレ達を…
いや、オレとナルトを交互に見る。

目だけで人を殺せるんじゃないかというほどの意志の強い眼差しに、負けんとばかりに見つめ返すと、組まれた両手の奥で口角が上がったのが分かった。

「ナルトを第六代火影に任命する」

静かな空気が流れる。
ゴクリ、と喉を鳴らす音が聞こえた。
隣を見遣れば、見開いた両眼からポタリポタリと涙を落とす青年の姿。
その奥で微笑みながら涙を流すサクラと、無言で拍手するカカシ。

赤い紅から小さく漏れた「おめでとう」に、鼻水と涙でグチャグチャな顔でニッと笑う顔に心臓が高鳴ったのは
オレだけの秘密にしよう。



しばらくして皆が落ち着き、退室しようとすると

「うちはサスケ…お前は此処に残れ」

話がある、と引き止められた。
え?という顔をする皆を見た火影は、取って食ったりはしないから安心しろと笑った。しかし、それが明らかな作り笑いであることはオレだけではなくアイツ等も気づいていただろう。

「大丈夫だ」

オレの口から自然と漏れたそれは、彼等に向けたものなのか…
はたまた、自分自身へのものなのかは分からない。
「せーのっ」
「「おかえりなさい!!」」

唖然とした。
ただただ、体が硬直して動けない。

ナルトに連れて来られたのはアスマ班御用達の焼肉屋だった。
背中を押されて中に入ると、クラッカーの弾ける音。
そして、オレを見つめる級友達の姿。

「どうして…?」
「みーんな、お前のことを待ってたんだってばよ!」

皆上忍だから忙しくて、全員が里に集まる機会がなかったんだけどさ。そこをなんとかして火影様に予定を合わせてもらったんだ。
せっかくお前が帰ってきたんだから歓迎会くらいは開きたかったし…

「お前はこうでもしねぇとオレ等と会っちゃくれねぇだろ?」
「シカマル…」
「今日はパーッとしましょうよ!ね?サスケくん」
「たまにはこういうのも悪くないだろう」
「肉肉肉肉ぅぅう!!!」
「チョウジ!今日はサスケくんのパーティーなんだからね!あんたは肉を控えなさい」

賑やかだ。
こんなの、何年ぶりだろう。
もう二度とこんなことは出来ないと思っていた。
もう二度と彼等に会うことはないと思っていた。

あまりにも非現実的なこれは、まぎれもなく現実で…
例えもし夢だとしても、今まで見てきた夢で1番幸せな夢だ。

「ナルト、お前が音頭取れよ」
「ニシシッ、照れるってばよ…んじゃあ、皆さん御規律下さいっ!!」

サスケの帰郷と、
永久の平和を祈って…

「乾杯!!」
「「かんぱーい!!」」



家に着いたのは日付けが変わる頃だった。

あのあと結局三次会まで開き、最後に写真を撮ってお開きとなった。

完全に酔い潰れたナルトは着いた瞬間にベッドにダイブしてしまい、涎を垂らして寝ている。
オレは酒に弱いと自負しているから飲まなかったが、ナルトに関しては意外にも自他共に認める酒豪らしく、ボトル飲みしていた。

「皆変わってなかったな。お前も…あの頃のままだ」

外見は大人びて、忍としての風格がひしひしと伝わってくる。
けれど内面にある優しさは皆変わっていない。裏切り者のオレを快く受け入れてくれた。

別れ際にサクラとイノに言われた「好き」も何故か純粋に嬉しかった。…そんなこと面とむかっては言えないが。

「ありがとう、ナルト」

臆病者のオレだから今はこれ我慢してくれ。
いつか目を見て言うから
里に戻ってきてから二週間ほど経った。

今は、結局ナルトと同居している。
というのも、あのあとアイツがタイミング悪くウチに来てしまい…
まぁ、かなりキレたナルトが「こんなとこにお前を住ませたくねぇ」と強制的に同居が決まったわけだ。

正直助かってはいるが、賞味期限の切れたものはちゃんと処分してほしい。

「ザズゲェ…腹痛いってばよぉ…」
「お前まさかテーブルの上にあった牛乳飲んだのか?」
「う゛う゛」
「っ、このバカ!あれ一年以上賞味期限過ぎてるぞ!」

味で腐ってるか腐ってないかくらい分かるだろ。なんでこいつは昔からこうなんだ。
これ以上会話するのも疲れたから、トイレに無理矢理押し込んだ。
中から『痛い』だとか『助けて』だとか聞こえてくる。

本当に、やめてほしい。
このセリフだけ聞いてたらまるでDVだ。
外にまでこの声が漏れてたら、オレがアイツに手を出してると勘違いされるじゃないか。

何も聞こえないふりをしてこの先どうするかを考えていると、スッキリしましたとでもいうような顔でヤツが出てきた。

「腹痛治ったぜ!」
「あっそ」
「だからこれから出かけるってばよ!」
「は?何処にだ?」
「いろいろだってば」

もうすぐ昼だからラーメン食いたいし団子も食いたいな。あと、お前は服と下着も必要だろ?
そう言ってニシシッと笑った。

最初の方は聞かなかったこととして、たしかに着替えが欲しい。
今は三着を着回している状態だ。あと二着くらいあった方が助かるな。



里の中心部は昔同様賑やかだった。
たくさんの屋台が立ち並び、忍具や衣料品、食料品、風俗店などが全て揃っている。

「安く買えてよかったってばよ」
「ああ。お前は何も買わないのか?」
「うん!でも、行きたいところがあるから付いてきてくれねーか?」
「構わな、っわ!!」

オレの返事を最後まで聞かずに買物袋を持つ反対側の手をギュッと握って、来た道を逆方向に駆け出した。
「おい!このウスラトンカチ!」
「いいからいいから」

そう言って笑うこいつは心底楽しそうで、どうせ逆らっても離してくれまいと確信した。

…たまには、他人に流されるのも悪くないだろう。
そう自分に言い聞かせ、大人しく手を握り返した。