「んぅっ、う、はぁ…」
薄い唇をこじ開けて舌を入れると、口内を切っているのだろうか、鉄分臭い味が舌を伝った。
(血生ぐせぇ…)
無抵抗なのをいいことに、奥にひっこませていたそれを絡めようとすると、消極的ながらもオレの舌を受け入れてきた。
ねっとりとした舌の触感にクラつきそうになる。
どちらともなくゆっくりと唇を離せば、溢れた唾液が口端から垂れ落ちた。それをクイッと手の甲で拭い取る。
目の前にはオレと同じく口元を唾液で濡らし、真っ赤な顔で息を切らすイザヤの姿。
涙で潤む瞳を細めてオレを見るもんだから、どうしようもない気持ちになってしまった。
「な…な、んで…?」
「てめぇが好きだ」
紅い瞳が見開いた。
信じられないとでもいうように、パチパチと瞬きを繰り返す。
「なんで?!だって、嫌いでしょ?オレが死んだら嬉しいでしょ?」
「てめぇもオレの死を望んでるんだろ?」
「違う!!」
その言葉は叫ぶように放たれた。
本人は歯を喰いしめ、涙をためた瞳でオレを睨んでいる。
「最初は大嫌いだった。フィーリングもくそもないし、化け物のくせに皆に愛されてるし、理屈なんて通じないし…」
一瞬、心が痛んだ。
化け物、と。ハッキリ言われるとやはり辛いものがある。
そんなオレを察してか、イザヤはごめんねと謝ると
「でもね、だんだんシズちゃんに惹かれていくオレがいたんだ。絶対に死んでほしくないのにあんなことしか言えなくて…。シズちゃんもいつも本気でオレを殺しにかかってく「それは…それは、オレもお前と同じだ。もうまどろっこしいことはいらねぇだろ?」
好きなんだよ、折原臨也。
そう言うと、とうとう目の前の男は唇を歪ませてグズグズと泣き出した。
ギュッと閉ざされた目からボロボロと涙を垂らして鼻を啜る姿は、
今までオレが見てきたコイツの中で、一番人間くさかった。
その顔を隠すように軽い口づけを何度も落とす。
チュッチュッと音を立てて、角度を変えながら
泣き止むまでずっと、ずっと…。
「シズちゃん大好き」
「おう」
その日、オレたちは初めて二人きりで帰った。
イザヤは上機嫌でさっきから何度も好きだと繰り返す。
そしてオレにこう尋ねるのだ
「シズちゃんは?」
「さっき散々言っただろうが!」
「えー?そうだっけぇ?」
「しらばっくれんじゃねぇ!」
プクッとガキのように頬を膨らませる姿にイラッとくる。
それでも繋いだ右手を振りほどけないのは、惚れた弱みというやつなのだろう。
「あ゛ー仕方ねぇな!一回しか言わねぇから耳の穴かっぽじってよーく聞け!!」
キャンキャン五月蝿いコイツの背中を抱き寄せて、耳元で囁いた。
「 」
途端に黙りこんでズルイ、とオレから目を逸らす。
ズルイのはお前だろ。
そんなに顔赤くされたら加虐心が擽られる。
…そんなこと絶対に言ってやらないが。
明日からコイツとどうやって過ごせばいいんだろうとか、新羅や門田にどう説明しようだとか考えたら胃が痛む。けれど、
「キスしてよ」
今だけは、腕の中で微笑むコイツの存在にただただ満たされていたい。