「その音、どうやったら出るの?」
「…キュイキュイ」
「うん。その音。自分でも自覚があって鳴らしてたんだね」
「トムさんにも言われたことあるからな」

ああ…トムさんって職場の先輩だよな。
シズちゃんめちゃくちゃ慕ってるんだよね、そりゃもう犬みたいに。
いっつも一緒にいるし…。
なんか、不愉快。楽しくない話しだ。

「すまねぇ…」
「はい?」
「耳障り、だったよな」

シズちゃんは不安そうに、ストローでシェーキをぐるぐると掻き混ぜている。

もしかして、さっきの顔に表れてたのかな。

「違う違う。トムさんに嫉妬しちゃっただけだよ」

オレよりもシズちゃんのことたくさん知ってる人がいるの、ヤなんだよね。
オレって独占欲強いから。
我ながらこんなこと恥ずかしげもなくよく言うよと思う。
シズちゃんは、オレから目をそらして耳を赤くしていた。ウブでいいね。可愛い。

「こんな音でシズちゃんのこと嫌いにならないからたくさん飲みなよ」
「おう」
「むしろ汚い音出して飲むより可愛くて好きだよ、オレは」

だからどうやったらその音が出せるのかあとで教えてね?
そう言って笑いかけると、任せとけと笑顔を返された。

今夜が楽しみだと呟いたオレの声は、キュイキュイとシェーキを飲む彼の耳には届いていない。



*****



「っ…ちゅっ、んぅ…」
「うまいよ…っ…」

小さなアパートに水音が響く。

胡座をかくオレの股間に顔を埋めて、必死に口を動かす姿が官能的。涙目でそんなことされるんだから、たまったもんじゃない。

「音出ないんだね」
「くちゅ…ぅぐっ…」

頭に疑問符を浮かべて上目使いをする表情があまりにもよくて、体の中心に血液が集まったのが自分でも分かった。

危ない、油断したらイっちゃいそう。

「ね、同じ吸うという行為なのにこっちはやらしい音しかしないんだよ?」

昼にシズちゃん言ったよね、任せとけって。
男に二言はないんでしょ?

(たくさん教えてもらおうか)

オレは快楽に目を閉じた。
しばらくすると、たくさんのシェーキがテーブルを埋めた。
シズちゃんの目が、宝物を見つけた子供みたいにキラキラしてる。

「すげー!マジすげぇ!」
「見てるだけで胃もたれしそうだよ…」
「ストロベリー、バナナ、これは…ヨーグルト?いや、バニラか?んで、これがチョコだな!」
「まぁ、ゆっくり飲みなよ」

もう、苦笑いしかできない。注文したのはオレだけど、ジャンキーなものをこんなに大量に目の前にしたら、さすがにゲッソリしてきた。

シズちゃんはさっそくシェーキにストローを刺して、キュイキュイと飲みはじめた。
白い喉が動くのを呆然と見ていたら目の前にスッとシェーキを差し出されて、

「飲めよ」
「え?」
「腹減っただろ?」
「あ、ありがとう」

何度も言うけど、ジャンキーなものは好きじゃない。
でもせっかくシズちゃんに進められたんだから断ることなんて出来るはずないだろ、少なからずオレにはムリだね。

半ば無理矢理握らされた容器の蓋を少し開けて中を見ると、ストロベリーの甘ったるい香りが鼻を擽った。
この、いかにも香料ですってかんじの香りは嫌いじゃない。むしろ毒々しくて好きかも。

ストローに軽く口づけておそるおそる吸うと、口一杯に甘味が広がった。
冷たくて、甘い。
オレにとっては甘すぎて逆に苦味を感じるよ。

シズちゃんはこういう味が好きなのか…ふ~ん…。

でもね、今のオレにはこのシェーキの味が好みじゃなかったことなんてどうでもいいんだよ。
もっと重大な事実を発見したんだから。

「イチゴ味一口くれよ」
「はい、残りのやつ全部飲んでいいよ」
「マジか?じゃあ貰うな。…キュイキュイ」
「………ねぇ、」

なんだよ、と言いたそうな顔付きでオレを見るシズちゃん。
キュイキュイとシェーキを飲んで、モフモフとハンバーガーを食べる。
そんな池袋最強の男、平和島静雄を好きになったオレはやはり変態なのだろうか。

「キュイキュイ」
「………」
「モフモフ…キュイ」

さっきから視線が痛い。
そりゃそうだろう。犬猿の仲の男二人が真昼のファーストフード店に、しかもテーブルに向かい合って座ってるんだから。
人間ラブ!なオレだから、この刺さるような視線自体は快感だ。
シズちゃんはシェーキに夢中で視線に気付いてないみたい。

「キュキュッ…あ、」
「おかわりする?」
「え?いいのか?」

縋るような声でそう言われたら断れるはずがない。
全然大丈夫だよと微笑んでやれば、はにかみ笑いを返された。

「味はどうする?」
「んー…今バニラだったからな…チョコ?」
「ハハハ、なんで疑問形なの」

オレは近くにいた店員を呼んで、シェーキ全種類下さいと言った。店員は目に見えてビックリした顔をして、畏まりましたと足早に店の奥に消えた。

「え、本気か?」
「全種類飲むのが1番手っ取り早いでしょ」
「お前らしいな」

大丈夫。
シズちゃんは五人前の巨大パフェを一人で完食する人間だから、シェーキ六本なんて余裕だよ。