確か去年の今頃。妊婦でもないのに日々せせり出てくるお腹をなでつつ、

「結婚式までには何とかしなきゃなー。でも森でジョギングもなあ。大抵死体の第一発見者って、犬の散歩者かジョギングの人って決まってるし。そーれは勘弁ってか。はは」

とワイン片手に雑誌を読んでいた女将。と、そこに飛び込んできたのが
『運動不足のあなた、ぜひ手軽なラジオ体操を!』
の記事。そこには、畳1畳のスペースで体の至るところが楽しみながらストレッチできる、と謳われている。
確かに。

思えば小学校の夏休み、ラジオ体操の出席カードを判子で埋めるべく、今思えば無駄に毎日早起きしたものである。6年生になると、今度は押す側になるので、体操終了後、下級生が自分の前に列を成す。それが自然と人気投票になるという、ある意味シビアな朝のヒトコマ。女将は地元のソフトボールチームに入ってた強みで、子分達に『女将の判子毎日獲得』権を強制授与していたので安泰であったが。

また、4年生の時の先生が、どういう訳だかラジオ体操マニアであった。体育の時間はもちろん、昼休みや他の授業をつぶして我々にラジオ体操を叩き込んでくれたおかげで、「チャンチャーラチャチャチャチャ♪」のイントロが流れるのと同時に、無意識のうちに直立体制、そして揃えた足の踵をリズム良く上げ下げして、次の「大きく背伸び!」に備えてしまう。

フリは既に体に染み付いているし、何か道具が必要って訳でもない。

・・・・やってみるか。

CDが出ているのを知った女将は、早速日本のアマゾンで注文して、ここイギリスまで送付してもらった。


そして翌朝。「ラジオ体操は朝やるもの」と固く信じている女将は、朝のコーヒーを入れがてらCDプレーヤにCDをセット。とりあえず一通りやってみる。

ラジオ体操、恐るべし。無意識のうちに体が動く動く。最初に「ラジオ体操の歌」(あーたーらしい朝がきたっ、きぼーのーあーさーだ、って奴)が流れないのが残念であったが、それでも一つ一つの型(でいいのか?)を消化していくこの心地よさ。そして達成感。第二が終わる頃には心地良い汗までかいていた。

体操を終え、満足感いっぱいで一息つく女将に、それまで女将の様子を黙って横で見ていたスーさんが言った。

「なんか共産主義の国の人みたい」

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これはきっと「太極拳」の彼流の表現なんだと思う。が、
それ以後CDが流れることはなかった。