私の趣味はパチンコである。

いや、あったが正しい。

イギリスにパチンコは存在しないのだから。


スーさんも私と付き合い始めた初期の段階で「パチンコ」という単語を知るのだが、

当然どういうものか見当もつかない。

百聞は一見にしかず。

去年帰国した時の最終日の晩、ついにその時がきたのであった。

 

二人並んで目ぼしい席を陣取る。

「まず1000円札入れて、ボールが出てきたらこのハンドルをブッコミ、じゃなくてherehere狙ってkeep shooting!そうそうハンドルそのままEnjoy !


急いで説明して自分の台に向かう。


(本当は一人で来たかったなあ。子守はつらいぜって何だよ、全然回らないよこの台。ハズレか?)


イラついてると横から、


「玉無くなっちゃった。」


だったら次の漱石でしょ!あんた打つ気あるの?

いかんと思いつつヒステリックな私。

結局3000円使ったところでリーチも来ない台に飽きたスーさんは


「どこが楽しいか全然分かんないや。ケーキ屋行ってくる」


なんの未練も残さずコージーコーナーへと消えた。


たった3000円でパチンコ全てを知ろうとするほうが間違っているんだよ、君。


子守から解放された私はやる気のない台にさっさと見切りをつけ、別の台に移動した。


見つけたのはチェッカーズの台。

懐かしさより恥ずかしさが前面に出た機種だが何かが私に引っかかった。

うむ、お相手してしんぜよう。


フミヤと仲間たちは私を大歓迎してくれた。

次々に来るリーチ。だがそれを見せるべきスーさんはいない。

そして数分後、来ました来ました大当たり!箱がどんどん積まれていく。

気づくとホールには私ひとり。閉店まであと10分少々となっていた。

 

ケーキの箱をぶらさげて帰ってきたスーさんは私の偉業に感嘆の声をあげた。


「すごーい!!」


限られた時間内で少しでも多くの玉を稼ぎ出す。

それが常日頃パチンコが打てない自分自身へのレクイエム。

私の集中力はマックスまで上昇し、そして燃え尽きた。


店員さんが積み上げた箱を計数機に移動しザラザラと流し込む。

引き換えに手渡される合計玉数が印刷されたレシート。


「玉、玉はどこ行ったの??」


スーさんを無視してカウンターでレシートと交換に青と黄色のプレートを入手し、

余り玉をお菓子に変えてもらう。


「ねえ、なにガラクタもらってんの?それより玉は?」

「すみません、交○所はどうやって行けばいいですか?」


明らかについて来れていないスーさんを無視して店員さんに場所を聞く。時間が無いのだ。

「ご案内いたします。どうぞこちらへ。」

 

店員さんの後についていく私。2人の後をケーキの箱を提げたスーさんが追う。

パチンコ屋のドアを出、店員はズンズン進んでいく。

右へそして左へ曲がる。

道幅も徐々に狭まっていく。


「ね、ねえ。どこ行ってるの?怪しいとこじゃないの?玉は諦めてホテル帰ってケーキ食べよ、ね?」


こそこそ耳打ちするスーさんの声は懇願に近い。


「こちらでございます」

定員さんが小さな小窓のついた壁を指差す。

それを認めて私は青と黄色のプレートを窓下の引き出しに納める。

にゅっと伸びた手がプレートを掴んで向こうに消える。


「ひいい!」


程なくしてお札と共に引き出しが戻ってきた。それを私が取り上げるや

「ありがとうございました!」

店員さんは頭を下げて店へと戻っていった。

 

ケーキの箱を握り締めてその場に立ち尽くすスーさん。

雨に濡れた箱がスーさんの心境を物語っている。

何がどうなってあの大量の玉が紙切れになって、プラスチックになってそんでお札に、、、

日本人でも最初のうちは戸惑うものだ。


私はお札を扇子のように広げて言った。

「ほーら!これで成田空港の回転寿司でホタテの海鮮焼きおなかいっぱい食べれるよ!

しっかし換金所まで来たイギリス人ってスーさんが初めてかも!こりゃ傑作!!

さ、ホテル戻ってケーキ食べよ!」

 

それ以降スーさんは二度とパチンコ屋に行くとは言わなくなり、私は独りの時間をエンジョイしている。

 

スーさんは時折言う。


「パチンコの魅力は分からない」