- 著者: 絲山 秋子
- タイトル: 袋小路の男
- 講談社 ★★★☆
[あらすじ]
高校生のときにジャズ・バーで初めて会った高校の先輩、小田切のことを日向子はずっと想い続けている。追われると逃げ、去ろうとすると突然電話をかけてくる彼は、まるで猫だ。つかず離れず、指一本触れないまま12年が過ぎようとしていた・・・。
絲山作品は不思議だ。なかなか報われない恋の話なのに、なぜか読んでいてあたたかい気持ちになる。そこにはまっすぐな気持ちがあって、不器用でねじれているけれどそれを確かに受け止めている人がいる。彼女は「恋愛が成立していない男女関係のここちよさ」を描くのがとてもうまい。
お願いだから、こんな素敵な小説に「純愛」とかいう手垢のついたコピーはつけないでほしい(かといって他に名文句は浮かばないけれど。苦笑)。時間を置いてまた読み返したい作品。
なんだか共感してしまったのはこの部分。
ばかだな、と言われるのが好きだと小田切は知っていて、それで毎回のようにばかだな、と言う。何度言われても日向子は快さを感じた。いつもきっちりしていて虚勢を張っている自分が、ばかだな、という言葉の前で角砂糖が紅茶に溶けるようにほろほろと崩れて、甘い気持ちになる。それはある意味、可愛いとかキレイとか言われるのと同じことではないか、と日向子は思った。好きとは違う。好きというのは、嫌いも含んで好きということだ。好きと言われたら私も好きとか、ちょっと待ってとか返さないといけない。ばかだなは、ええー、そんなあ、と言ってばかみたいに笑っていてもいい。保留していていい。
- 著者: 絲山秋子
- タイトル: 逃亡くそたわけ
- 中央公論新社 ★★★
[あらすじ]
精神病院から逃げ出したなごやんと花。ふたりはまだ見ぬ追っ手を避けて、暑い日差しの中、車を走らせる。東へ、そして南へ。花の21歳の夏はこうして始まった・・・。
こちらは旅もの。精神病院から抜け出したふたりだけれど、それほどせっぱつまった感じではない。途中で無免許の花に運転させたり、阿蘇へ観光へ行っていきなり団子を食べたり、食い逃げしたり、川で洗濯したり。読んでいると、アスファルトに反射するまぶしい光をフロントガラス越しに感じたような気になって、思わず目をつぶってしまいそうだ。
それにしても、恐るべし絲山秋子。これで彼女の単行本はすべて読んだけれど、一冊としてハズレがない。
今のところ、「袋小路の男」が最高傑作。
BGM:ピアノガール/くるり