アルバニアの世界的な作家であるイスマイル・カダレの作品は、日本語に翻訳され、書籍として出版されているものは全て読んだ。


夢宮殿

死者の軍隊の将軍

砕かれた四月

誰がドルンチナを連れ戻したか

草原の神々の黄昏

災厄を運ぶ男


これらを読んでまず感じたのは、カダレは読みやすいということ。


アルバニア及びその周辺の人々や文化、歴史という、世界中の読者にとって必ずしも馴染みのあるわけではない要素を扱っている一方で、展開が複雑すぎないため話に置いていかれることがなかった。時間や空間の頻繁な転換、行き来があるような類の構成を上記の作品群はとっていない。かと言って単調すぎることもなく、ミステリー的な趣もあって飽きない。


端的に言って、カダレの作品はけっこう面白かった。フランス語訳では全集も刊行されているらしいし、日本語でももっと書籍の状態でカダレが読めるようになったら嬉しい。


子どもの頃の私にとってアルバニアのイメージは、一にも二にもあの国旗だった。


幼い頃から絵本や図鑑で世界各国の国旗を眺めていたのだけれど、最も印象に残っていたのが、赤地に双頭の黒い鷲が描かれたアルバニア国旗だった。


もっと具体的にアルバニアを知りたくなるのは大学生の時だ。岩波新書『ユーゴスラヴィア現代史』を読んだあたりから、旧ユーゴ諸国のみならずバルカン半島全体に興味を持つようになった。分かってきたのは、アルバニアというのはあの国旗だけでなく言語や歴史も、バルカン諸国のなかで特異であること。おそらくはその特異さゆえに、アルバニアは今も私にとってバルカンで最も気になる国である。


そんな気になる国アルバニアに関する日本語の書籍を探してみると、豊富ではないがあるにはある。語学書や、政治史や国際関係を扱った本もある。そして文学という角度から興味を持つとイスマイル・カダレに行きつく。


と言っても上記の邦訳作品は今となっては手軽に入手できるものばかりではないので、カダレについて意見を交わせる日本人に、はたしてこの先どれだけ出会えるだろうか。