明日香村で出会った行儀が良すぎる修学旅行生さんたちよ | 安濃爾鱒のノート

安濃爾鱒のノート

これは web log ではありません。
なんというか、私の「ノート」です。

 数日前のこと、ちょっと奈良の明日香村の散策に出かけたのだが、その時の体験談である。

 

 私は元々関西の出身なのだが、大学を卒業してからは関西を離れて関東とか海外に長く住んでいて、その頃は、《 嘗ては京都・奈良などに日帰りで行けるところに住んでいながらそういう良い処にあんまり行かなかったのは非常に勿体ないことをしていたなぁ 》と 後悔していたものだったが、五年程前、父が脳梗塞で倒れたのを切欠に関西に戻ってきて、しばらくの間は、父の介護で自分の自由な時間が取れなかったのだが、約二年前に父が他界したので、最近は、京都奈良などの名所旧跡巡りを楽しんでいる。

 しかし、近年は、京都市内や奈良市内は、年がら年中、例の迷惑な隣国からの訪日観光客で一杯であるうえに、今のようなシーズンは、(私が未だ子供だった四~五十年前からそうであるように)、京都市内奈良市内は修学旅行の団体で一杯になる。

 そこで、このシーズンは、奈良県の南部の名所めぐりをしていて、先日は、明日香村に行ってみた。

 やはり、明日香村だと、例の迷惑な隣国からの人達や修学旅行生の団体に出会わなくてラッキー、と思っていたら、ここでも修学旅行生らしき団体に出会ってしまった。甘樫丘(あまかしのおか)の上にある展望台でのことである。

 《 あちゃー、運が悪いなぁ 》と思っていたら、実は 全然 迷惑な団体ではなかった。この学校の生徒さんたちは、非常に行儀が良かったのである。実は この後 飛鳥寺でも同じ学校の団体と出会ったので、脇の駐車場に止まっているバスのプレートを見ていると「横浜共立」と書いてあった。後で その名前でググって調べてみると、どうも、この学校の生徒さんたちは行儀が良いことで有名らしい。

 というわけで、甘樫丘や飛鳥寺で出会った横浜共立の生徒さんたちは非常に行儀がよくて、偶然この団体に巻き込まれた私は全然不愉快な思いをしなかったのだけど、ちょっと気になる光景を目にすることになる。

 この団体には、地元明日香村の観光ボランティアガイドさん(:「ボランティア」と言っても、語源の "volunteer"「志願兵」の方ではなくて、「無償で奉仕活動をする人」という意味の方である) が付いて廻っているらしくて、甘樫丘でも飛鳥寺でも、この観光ボランティアガイドさんが生徒さんたちに対し かなり丁寧な説明を行っていたのだが、甘樫丘の上の展望台での説明で、ちょっと《 やっちまったなぁ 》というシーンを見てしまった。

 生徒さんたちは、ガイドさんの説明を ずーと 非常にまじめに熱心に静かに聞いている。私語をする子が一人も居ない。それ自体はとてもいいことなのだが、真面目過ぎて問題だったりすることもあるんだなぁ。

 この甘樫丘の上の展望台というところは、東を見れば 明日香村・飛鳥の里が一望でき、南東には石舞台、西は橿原神宮・畝傍山・神武天皇陵、北西には斑鳩の里・生駒山系、北は藤原宮跡・耳成山、北東は香久山、と色んな方向で一杯楽しめるところなのだが、ここで、ガイドさんが、「(西の橿原神宮・畝傍山・神武天皇陵の方を指して) こちらの写真を撮るのは間違いです。(東の明日香村の方を指して)こちらを撮るのが正解です」と言った。生徒さんたちは、それを非常にまじめな表情で聞いている。頷いている子もいる。それを横で聞いて見て居た私は 心の中で 吉本新喜劇の様にずっこけてしまった。

 《 いやいや ここ 笑うところだから。これって "ネタ" だから。》 

 橿原神宮・畝傍山・神武天皇陵の景色が大切でない訳なんかないのである。このおじさんは、自分の地元の明日香村・飛鳥の里を「贔屓の引き倒し」をするという冗談を言っているのである。それが、超真面目な学生さんたちに通じなくて、「すべって」しまったというわけなのである。明日香村に観光に来る人の多くは、大阪辺りからの日帰りの人で、橿原神宮・畝傍山・神武天皇陵 (特に橿原神宮) の重要性は明らかだから、このガイドのおじさんの冗談が判って当然なのだろう。私の祖母の旧姓は「曽我」で、飛鳥の里イコール「曽我の里」であって、私には 飛鳥の里を軽んじる気持ちは全然無いのだが、陛下・皇族の方の御親拝・参拝もある橿原神宮・神武天皇陵と比べれば、飛鳥の里はやはりマイナーな存在であることは否めず、明日香村のボランティアガイドさんを含む、多くの大人たちも同じ思いであろう。そういう「関西の大人の常識」を前提としての、「それでも我が里がイチバンだあー!」という贔屓の引き倒し型冗談だったのである。

 が、横浜の超真面目な女子高生たちにはそれが通じず、「すべって」しまったのだ。

 

 私は、聞かなかった・見なかったことにして、静かにその場を立ち去った。

 

   ーーーーー杉浦 憲二 (Sugíura Kenji) ーー sui generis ーーーーー