Comandante, Vada a bordo, Cazzo! | 安濃爾鱒のノート

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これは web log ではありません。
なんというか、私の「ノート」です。

また、イタリアで客船の事故がおきたようだが、それで思い出したこと。

去年の1月の、地中海クルーズの客船 Costa Concordia の事故で、船長(Francesco Schettino)と沿岸警備隊(【伊】 Guardia Costiera)との間の交信が、youtube に上がっているが、
( 【伊】"Vada a bordo, Cazzo!" の 部分が有名 )
この中で、船長は
コマンダンテ」 ( 【伊】comandante )
と呼ばれているのを聞いて、ちょっと思い出した話。


初めてスペインに行った時の事。
イベリア航空の成田発モスクワ経由マドリード行きを利用したのだけど、そのモスクワ空港にもうすぐ着陸するという時、突然の機内放送、それも、それ迄のCAの女声ではなく、太いオッサンの不機嫌そうな声。
でもまぁ、音はかなり悪いし眠いしで 最初はまじめに聞いてなかった.だが、途中、「コマンダンテ」という言葉を聴いて目が覚めた。
「コマンダンテ」というのは、実は、ここでは、機長のことなんだが、
(スペインのスペイン語では機長船長は「コマンダンテ」、 中南米のスペイン語では 機長船長は「カピタン」で、 中南米のスペイン語では「コマンダンテ」は、軍隊の階級を示すことば )
その頃は、日本-欧州間の航路にロシア上空を通過出来るようになって未だ間もなかった。(それ以前は、南回りかアンカレッジ経由)で、そっちの方素人の俺は、乗る前、《 西側の飛行機がロシア領空なんか通って大丈夫かいな?》とちょっと不安に思っていた。
大韓航空機が北海道の近くでソ連空軍機に撃墜されたことがあったし。
そんなところに、突然、機内で、「コマンダンテ」=軍の偉い人がぶっきらぼうな話しっぷりでなんか言っている。私はてっきり、ロシア軍の放送だと思った。
そう思い込んでから放送を聴くと、さっぱり聞き取れない。
状況がわからないからおいおいこの飛行機は一体どうなるんだ!?と不安になる。
そのうち、「まもなく私がこの飛行機をモスクワ空港に着陸させる」といっているのは判った。(奴が言ったことを直訳するとそうなる。日本語と違って、欧州語では、主語をはっきりさせるし、「なる」と「(私が)する」はしっかり使い分けるので、こうなってしまう)
ロシア軍の司令官が西側の国の民間航空機をモスクワ空港に着陸させる、と言っている、と思った私は、《 えらいことになったみたいだ 》と、ひとりオロオロしていた。だが、となりの親父を心配させないために、黙っていた。
親父を含め、周りの日本人たちは、スペイン語が判らないらしく、暢気なもんだ。
やがて飛行機はモスクワ空港に着陸し、CAはハッチを空けて、邪魔くさそうな態度で《 さぁさぁ、降りたい奴はさっさと降りな 》と乗客を促す。
なんにも判ってない親父は、「モスクワ空港なんかあんまり面白くなさそうだけど、ずーと座っているのに疲れたから、空港内を散歩してくる」と出て行こうとする。
慌てておれが追いかける。機を出ると、搭乗ブリッジ入り口横に、マシンガンを持ったロシア兵が立っている。あぁ、こいつが俺たちをどっかに誘導するんだな、と思ったので、そいつの前に立ち止まると、そいつがマシンガンを振って、《 さっさと行け 》というポーズをする。
どうやら、そんなとこに立ち止まったら邪魔だ。さっさとどっかに行け、ということらしい。
で、勝手に空港ターミナル内を適当にどんどん進む。
親父は、勝手に土産物屋を見て回っている。他の日本人も同様、気楽に土産物屋を見て回っている。《 あれ!?なんだぁ?? 》
《 知らぬが仏、といっても長閑過ぎるだろ 》という気分である。
何がナンだか判らない。判らないまま時間が来てまた同じ飛行機に乗り込みやがて何事もなく離陸し数時間何事もなく飛んで何事も無くマドリード空港に着きバルセロナ行きに乗り換えバルセロナ空港からバスでホテルに行き、ホテルでバタングーと寝て、その日は何事も無く終わった。


「コマンダンテ」の話が、単なる機長のご挨拶だとわかったのは、その二日後、バルセロナ発グラナダ行きの国内便に乗ったとき、隣のアメリカ人と話をしたときであった。(グラナダはアルハンブラ宮殿のある町)
「なぁ、よ-ろっぱじゃ、民間航空機でも離着陸に空軍の指揮下に入るのか?」
「んなわけねーだろ」
「だって、いま、『こまんだんて』が喋ってただろ」
「ありゃ、機長の挨拶だ。こっちじゃキャプテンは『かぴたん』じゃねえ、『こまんだんて』ってんだ」
「!」
それまで、私は、ずーっと、
あれは一体何?
ロシア軍は一体なにをしたかったんだよ?
と悩み続けていたのだった。
で、スペインの空で、下手糞な発音のスペイン語を話すアメリカ人に 笑われてしまった。
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# ネット上の掲示板で見つかる書き込みの中にも、この
#  Costa Concordia 号の船長(【伊】comandante)を、
# 沿岸警備隊("Guardia Costiera")の司令官(【英】commander)
# のことだと間違えている人がいるようだ。