罪の声 | 羊飼いの戯言

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作品の感想や雑感をつらつらと述べたblog

 子どもが生まれると自分の時間が取りにくくなるのですが、一番困るのは家で落ち着いて本を読む時間がなくなること。というわけでこの本も購入してから手をつけるまで半年近くかかりました。
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 題材としては昭和の事件史に残る未解決事件「グリコ森永事件」に着想を得て、幼き日の自分の声が脅迫状作成に利用されたかもしれないという「加害者の身内でもあり被害者でもある」青年と、事件の特集のために再調査を命じられた新聞記者の二人を主人公にして両面から掘り下げていった作品。一応フィクションなのですが、実際に起こった事件を下敷きにしているだけに、もしかすると真相はこうであったのかも、と思わせる重厚な内容でした。
 そしてこの作品が優れているのは、単に解決の真相案を提示するだけでなく犯行に至った犯人達の生活状況やそれに巻き込まれて脅迫状作成に協力した(させられた)子供達や家族に焦点を当てて、「過去」の謎解きをするだけではなくこの事件が「現在」そして「未来」にも遺した爪痕をクローズアップしていること。ヒューマンタッチの溢れるドキュメンタリーに仕上がっていてボリューム的にも読み応えがありましたし読後の清涼感も得られる作品でした。