#がん治療研究
がんのサポート役(CAF)を狙い撃ち 3Dミクロ腫瘍で見えた新たながん治療標的/早稲田大学
・3Dミクロ腫瘍モデル→体内腫瘍環境に近く高精度のシミュレ―ションを可能に
・既存薬の抗炎症薬「ドラマピモド」が膵がん等への薬剤の効果を高めることを確認 他
https://www.waseda.jp/inst/research/news/82483
【記事の概要(所要1分)】
早稲田大学と米国フレッド・ハッチンソンがん研究センターの共同研究で、がんの「サポート役」とされる腫瘍随伴線維芽細胞(CAF)を狙い撃つ新しい創薬手法が開発された。
従来の平面培養では見逃されていた薬剤を、実際の腫瘍に近い「3Dミクロ腫瘍モデル」でスクリーニングすることで多数発見。
その中から、抗炎症薬候補だった「ドラマピモド」がCAFの働きを抑え、がんの増殖を止めるとともに、抗がん剤や免疫治療薬の効果を大幅に高めることが確認された。
特に膵臓がんなど線維化の強い腫瘍で薬剤の浸透性を高める可能性がある点は画期的で、がん細胞そのものではなく「がんを支える環境」を標的とする新しい治療の方向を示した。
さらに、この研究で発見された非古典的ヘッジホッグ経路「DDR1/2–MAPK12–GLI1」は、過去の治療薬が効果を発揮しきれなかった理由を説明する突破口にもなりうる。個別化医療にも応用できる可能性があり、がん治療の新しいパラダイムを開く成果といえる。
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私個人としては、既存の抗炎症薬が膵臓がんなどの繊維化が早いがんに効果を成すことにばかり注目してしまいます。
しかし、この研究の中心は、創薬手法としての「3Dミクロ培養モデル」です。
創薬の初期段階で、薬剤の効果を確かめる手段として用いられるのが、いわゆる細胞実験です。
現在、がん細胞による細胞実験は、2D培養が世界基準となっており、まずはこれをやるわけです。
2D培養とは、がん細胞をのみをとりだして、シャーレの上で培養させたものに薬剤が効果があるかどうかし試験するのですが、ここで効果があるとされるもののうち、実際に人体内でのがんに効果があるものは、わずか数%なのです。
2D培養は、コストが安いことや試験データの取りやすさから現在もスタンダードなのですが、この試験精度の悪さはずっと指摘されるところです。
その移行先として目されているのがこの3D培養なのですが、2Dと比較して3Dは、より体内に近い形でがん細胞を再現する手法と言ってよいと思います。
がんというのは、がん細胞だけが増殖するのではなく、その周辺環境や血管細胞、免疫系が相互に作用して悪化していくものです。
ところが、2D培養の場合は、がん細胞だけを取り出して増やすわけですから、体内の本当のがんとは程遠い姿になってしまいます。
3D培養、組織を立体構造として再現しますから、体内にあるがん細胞の状態を緻密に作り出すことが出来ます。
このことにより、薬剤の細胞への浸透を、より実腫瘍に近い形で確認できるわけです。
2D培養は、その手軽さから、今後も初期スクリーニング手段として活用され続けるはずですが、その次のスクリーニング技術として、3Dモデルが活用されるようになってきています。つまり、2Dと3Dの併用はもう始まっているということです。
効率等を考えると、今後は、3D培養が主流になっていくものと思われます。
ちなみに、その膵がんへの効果が期待される「ドラマピモド」ですが、肝毒性を主因として、臨床試験が中止になった経緯があるようです。
薬剤としての使用を考えると、従来のままでの使用は難しいように思いますが、何らかの方法で肝毒性の問題が解決されれば、いっきに臨床試験に進む可能性はあるように思います。
10年以内での実用は難しいかも知れませんが、20年ならどうかという感じです。