#がん治療研究
不要な細胞「食べさせて」除去 京都大学が新技術、がん治療など期待/日本経済新聞
・がん細胞を”不要細胞”と認識させて貪食細胞に食べさせるという新手法になるか
・マウス試験、悪性黒色腫の増殖を抑制
・2030年代の実用を目指す
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF028RO0S5A900C2000000/
★ネイチャー・バイオメディカル・エンジニアリング掲載論文↓
https://www.nature.com/articles/s41551-025-01483-9
【要約】
研究チームは、死細胞の“食べられ”シグナルを認識するProtein Sを改変し、貪食細胞(マクロファージなど)が特定の生きた標的細胞を認識して取り除くよう設計した合成タンパク質Crunch(connector for removal of unwanted cell habitat)を開発。**メラノーマ(悪性黒色腫)**モデルや、CD19+ B細胞を標的とする自己免疫モデル(全身性エリテマトーデス)で、腫瘍抑制・病勢改善を示しました。ヒト版・マウス版ともに有効性が示され、**標的細胞の“貪食除去”**を利用する新規治療プラットフォームとして期待されます。
【記事の概要(所要1分)】
京都大iCeMSの鈴木淳教授らが、体内の“掃除屋”である貪食細胞に不要な細胞を食べさせて除去させる新技術を開発しました。
自然界で「役目を終えた細胞」に目印を付けるたんぱく質Protein Sを工学的に作り替え、生きている特定の標的(例:がん細胞)に結合する合成タンパク質「CRUNCH」を設計。結合した標的を貪食細胞が認識して取り除きます。
マウスの悪性黒色腫(メラノーマ)モデルでは腫瘍の増殖が抑えられ、自己免疫モデル(CD19陽性B細胞を標的)では過剰な免疫反応が鎮まり、病勢が改善しました。ヒト版・マウス版ともに機能が示され、標的を差し替えて応用できるモジュール式のため、老化細胞の除去や難治がんなどへの展開も期待されます。既存の免疫チェックポイント阻害薬のようにT細胞を“攻め”で活性化するのではなく、マクロファージ等の“片付け”機構を直接使う新しい発想が特徴です。
論文はNature Biomedical Engineeringに掲載。とはいえ現段階は前臨床(マウス)で、ヒトでの安全性・オフターゲット影響・最適な投与法などの検証がこれから。
研究チームはスタートアップ設立を準備しており、2030年代の実用化を目指すとしています。
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免疫療法の新しい一手として今後確立される可能性があるもの、という認識です。
現在はマウス試験であり、これから多くのハードルが存在しているものの、”研究の価値”とでも言いましょうか、その画期性において、十分に「凄いもの」と捉えることが出来るのではないでしょうか。つまり、新しい免疫療法の中の機序なわけで、科学的なインパクトがかなり高いということです。
ただ現時点で、がん治療として期待できる効果は未知数と言えます。
マウスでメラノーマがどれほど除去されたのかと言うと、20~30%程度にとどまるようです。
これは、単剤でがんを制圧するほどの効果があることが示されたわけではない、のです。
安全性に関する事項がクリアにされた上で、実用に向けたフェーズに進む中で、恐らく、既存療法・別の療法との併用によって成果の上積みを狙うことになってくるのではないかと思います。
ただ、がんを完全に除去されないままでも、長く生きることが出来る患者さんが増えてきている昨今ですから、そういう方に新しい選択肢をもたらす可能性があります。というのは、これまで効き目を示さなかったがんについて幾分は効く可能性があることと、免疫不全下でも効果が期待できるからです。
順調にこの研究が続くとして、現状の患者さんにとって可能性があるのは、まず治験参加です。
これは楽観的に見積もると、数年内ではないかと思います。