#がん治療研究
一部の肺がんで放射線療法が免疫療法抵抗性を克服/海外がん医療情報
・放射線照射によって腫瘍が免疫系に「発見されやすい」状態に変化→原発巣に限らず全身に抗腫瘍の免疫反応を誘導→アブスコパル効果を誘導
※Nature Cancer掲載
【記事の概要(所要1分強)】
免疫療法が効きにくい一部の非小細胞肺がんに対し、放射線治療の併用が効果的である可能性が、ジョンズホプキンス大学とオランダがん研究所の共同研究によって明らかになりました。この研究は、Nature Cancer誌に2025年7月22日付で発表されたものです。
これまで、免疫療法は「免疫が冷たい」腫瘍、すなわち免疫系が十分に活性化されないタイプのがんに対して効果が薄いとされてきました。しかし、今回の研究では、放射線を腫瘍に照射することで、その腫瘍が免疫系に「発見されやすい」状態に変化し、全身にわたって抗腫瘍の免疫反応が誘導されることが確認されました。これは、原発巣だけでなく、放射線が当たっていない離れた部位の腫瘍に対しても免疫応答が起きる、いわゆる「アブスコパル効果」によるものと考えられています。
研究チームは、放射線療法とPD-1阻害薬(キイトルーダ)を併用した72人の患者から血液および腫瘍サンプルを採取し、マルチオミクス解析によってその免疫応答の様子を詳細に調査しました。特に注目されたのは、免疫療法に反応しにくい「冷たい腫瘍」が、放射線照射をきっかけにT細胞の増加や炎症性の変化を伴い、「温まった(ウォームアップされた)」腫瘍へと変化した点です。
このような変化は、免疫療法単独では得られなかった治療効果につながっており、放射線との併用によって治療抵抗性を克服する可能性が示されました。さらに、循環腫瘍DNA(ctDNA)などのバイオマーカーを通じて、免疫応答をリアルタイムでモニタリングする研究も進行中であり、今後の個別化医療の進展にも寄与することが期待されます。
本研究は、免疫療法が奏効しにくい肺がん患者に新たな治療選択肢をもたらす可能性を持ち、放射線と免疫療法の併用ががん治療の新たな地平を開くものとして注目されています。
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こちらの研究は肺がんによる研究となっていますが、この論文の内容からすると、現状の期待としては、肺がんに限定されたものではありません。
免疫的に「冷たい」性質を持つがんは、乳がん、前立腺がん、膵臓がん、大腸がんなどでも見られるものですし、有名なアブルコパル効果は肺がん以外のがん種での報告されています。
これまでは、あくまで”現象”であったアブスコパル効果を、免疫チェックポイント阻害薬を併用することによって(放射線治療と)、確率高く起こせる可能性が出てきた、というものと受け取っています。
免疫療法と放射線治療の併用ということでは、メラノーマ、膀胱がん、直腸がん、頭頚部がん肺・肝転移などで研究が進んでいます。
そう遠くない将来に、この併用療法が標準治療になる可能性はあると感じています。