本記事はこちら↓ 【ヤフーニュース 様】

 

【抜粋】

国内罹患率第1位と推計される前立腺がんは、進行がゆっくりの病態もあれば、進行が速く悪性度の高いがんも少なくない。現在、前立腺がんの治療では、ホルモン療法、手術や放射線療法などさまざまな選択肢がある。

「放射線療法は、身体への負担や、入院期間の短縮、さらに性機能や排尿機能の温存を考えて選ばれる方は多い。ただし、前立腺がんとは関係なく、前立腺肥大で排尿障害があるときには、放射線治療は向きません」
こう説明するのは、東京慈恵会医科大学泌尿器科の佐々木裕講師。前立腺がんのロボット支援下手術と放射線療法のどちらも得意としている。

ロボット支援下手術は、腹部に数カ所開けた穴にアボットアームの先端を挿入し、遠隔操作で行う手術のことだ。ロボットアームの先端の医療機器は、360度の回転が可能で手振れもなく、医師は3Dの拡大画面を見ながら治療を行う。当然、腹部の切開が小さくて済み、大きく切開する開腹手術よりも出血が少なく患者の回復も早い。とはいえ、前立腺は尿道を囲むように位置し、周辺には排尿や性機能に関わる神経があるため、手術を行う医師の技量によっては、ロボット支援下手術であっても排尿障害や性機能障害が生じることがある。

「私自身は、ロボット支援下手術は、患部を3D画像で拡大して見ることができ、人の手よりも機器を動かしやすいため、機能温存をしやすいと感じています。このメリットを活かせば、再発治療の救済全摘(別項参照)にも役立つと思っています」

前立腺がんの放射線療法は、手術で前立腺がんを取り除く手術と同等程度の効果は、すでに科学的に証明されている。悪性度の高い前立腺がんは、放射線療法でも、治療後に再発することがある。再発したときの治療は内分泌療法(ホルモン療法)が主軸だ。最初に放射線療法を受け、再発したがんが前立腺にとどまっていても、救済全摘が行われることは極めて少ない。

「放射線療法後に、たとえば、腸管と前立腺の癒着がある場合、再発した前立腺がんの救済全摘は腸管を傷つけかねません。しかし、救済全摘でがんが治る患者さんもいます。私たちは、適応を慎重に検討した上で、局所再発の救済全摘も行っています」

近年、さまざまな放射線療法の改良により、前立腺内部に強い照射を行い、周辺の悪影響を極力抑えられるようになってきている。だが、救済全摘には技術を要する。

「救済全摘後の患者さんから『ホルモン療法を止められて気持ちが晴れました』といわれたときには、合併症は多くなるリスクはあるが、救済全摘はひとつの重要な治療の選択肢であると痛感しました。しかし、まだ合併症の問題や適切な患者選択など多くの課題があります。これからも真摯(しんし)に取り組みを続けたいと思います」と佐々木医師は話す。

あすは、「凍結療法」を紹介する。 (取材・安達純子)

■前立腺がんの救済全摘とは

前立腺がんの放射線治療後、前立腺の中だけに再発した状態を「局所再発」という。一般的な治療法では、前立腺を取り除く手術は行われず、ホルモン療法が行われる。放射線治療によって周辺の臓器が癒着していると、手術によって直腸損傷や尿道狭窄などのリスクを伴うためだ。この状態でも前立腺を摘出する手術を「救済全摘」という。国内では救済全摘を行っている医療機関はほとんどない。東京慈恵会医科大学病院=写真=の泌尿器科では、患者の強い要望に応えるべく、救済全摘に取り組んでいる。

■佐々木裕(ささき・ひろし) 東京慈恵会医科大学泌尿器科講師。1999年東京慈恵会医科大学卒。カナダのトロント大学留学などを経て2017年より現職。泌尿器悪性腫瘍、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術、メンズヘルス、前立腺がん放射線治療を得意としている。