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配信:AERA
【抜粋】
進む低侵襲化と効率化。治療の価値基準は変わった
がんの手術も低侵襲化が進み、腹腔鏡や胸腔鏡を使った手術は一般的に。近年はロボット支援手術も進んでいる。「内視鏡的粘膜下層剥離術」などの内科治療も胃、食道、大腸で保険適用になった。薬物療法では「次世代シーケンサー」の登場が大きい。ゲノム配列の高速解析が可能で、分子標的薬の開発を後押ししている。
今後の創薬の発展が鍵
医療未来学が専門の奥真也医師はこう予測する。
「創薬はまだまだ発展途上です。見つけた遺伝子変異にピタリとあう新薬は、現状では5~10%程度しか生まれていません。2035年ごろには、ほぼカバーできるようになるとみています」
新たな分子標的薬と「免疫チェックポイント阻害薬(がん細胞によって阻害された免疫細胞の活動を元に戻す薬)」との組み合わせが鍵になるという。
「第5のがん治療法」として20年に承認された「光免疫療法」にも注目したい。特殊な薬剤を注射し、からだの外から光線(赤外線の一種)をあてると、がん細胞だけをピンポイントで破壊できるというものだ。
AIとビッグデータで医療は大きく転換する
このコロナ禍でオンライン診療が必要に迫られたものの、従来の診療に代わるには不十分。医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)はこれからが山場だ。奥医師によると医療ビッグデータの活用は準備期間が終わり、ホップ・ステップ・ジャンプのステップに踏み出したところ。約3年後の25年ごろから本格化する見通しだという。
「あらゆる場でビッグデータが活用されます。創薬では、以前は『仮説検証型』といって、まずは原理について仮説を立てるのが主流でした。それがこれからは、効く理由や理屈を考えるプロセスを飛ばして、データの分析結果から新たな薬を見つける『発見型』の創薬になります」
薬や内科的治療で大半が治せるように
診療の多くも「人工知能(AI)」に置き換わっていく。患者のからだの動きや声、においなどを瞬時に解析、診断できるようになり、AI制御のロボットが、人間の医師ではできないような動きで手術をするように。
「いまはまだ医師の経験や手先の器用さ、目のよさなどが治療の質を決定づける面があります。それがビッグデータとAIのコンビネーションにより、人間の五感、能力を超えた治療が可能になるのです」(奥医師)
世界はいま、「エピゲノム」の研究に熱い視線を注いでいる。
遺伝子変異を起こさせる要因であるエピゲノムの解析が進めば、病気の多くが予防できるようになると考えられている。発症しても、進化した薬や内科的治療で大半が治せるので、手術はごく特殊なケースだけ。そんな未来が現実味を帯びてきた。