行政書士試験というのは、訴訟法や登記法といった手続法が出題されません。

ところが、行政書士の実務は、まさしく手続きです。

手続法を理解することが、行政書士業務を理解することに繋がります。


個人的には、民訴法に関しては、行政書士試験に出題して欲しいと思っています。

民法をなかなか理解できないと悩む人は、民訴の知識が欠如していることが多々あります。


私自身、民訴法と不動産登記法に関しては、実務に必要な知識ですので、

実務の中で勉強しました。

手続法を理解することは、「構造」を理解することだと思っています。


民訴法の場合、原告と被告が、対立する当事者として争います。

これを、「二当事者対立構造」と言います。

双方が自己の主張をします。

(原告) この土地は俺のものだ、

(被告) いや、俺のものだ

といった感じ。


当事者は、証拠を裁判官に提示して、自分の主張が正しいことを信じてもらいます。

原告は、被告から土地を購入する売買契約を締結したことを主張します。

被告は、売った覚えはない、と主張すると、原告は売買契約書を証拠として出すのです。

或いは被告は、確かに売買契約は締結されたけれども、

売買代金をまだもらっていないので、土地を渡さない、と主張するとしたら、

原告は、すでに支払ったことを証明するため、領収書を証拠として出すのです。


これが民訴の世界ですが、不動産登記の世界もこれと似たところがあります。

土地を買ったら、登記名義を売り主から買い主へ移転させる必要があります。

この時に、法律で予め決まった書類を添付します。

民事訴訟の場合の裁判官ではなく、今度は登記官に法定証拠のようなものを提出する必要があるのです。


所有権移転登記の場合、まず、登記原因を証明する必要があります。

登記原因とは、売買であったり、贈与であったり、遺産分割であったり、です。

売買契約書のようなもので、登記原因を証明します。

次に、売り主が本当にこの土地を売る意思があるのか、を証明するために、

土地の権利証を付けます。

さらに、特に重要な権利である所有権を失う人は、実印を押し、

その印影が本当に実印であるかを証明するために、その印鑑証明書を添付します。

さらに、買受人は本当に実在する人なのか、を証明するために、住民票を添付します。

これらが、法律で規定されている、いわば法定証拠なのです。


不動産登記においても、民訴法上の二当事者対立構造と類似の構造が、

「共同申請主義」というカタチでとられています。

原告と被告が裁判官に判決の主文をもらうという民事訴訟と、

権利者と義務者が登記官に登記をしてもらうという不動産登記

その構造の共通性と異同を理解できますでしょうか。


民事訴訟法と不動産登記法の決定的な違いは、

裁判官の「自由心証主義」と、登記官の「形式的審査権」にあります。

が、手続法の構造的な考え方については、類似しています。


さて、行政書士業務に即して考えてみます。

行政書士の業務は、許認可と権利義務に関する書類作成。


許認可は、法務局、裁判所に限定される司法書士とは異なり、

無数の役所への申請です。

この時、役所の窓口は、形式的審査権を有しています。

必要書類とは、”法定証拠”なのです。

この時の構造は、二当事者対立構造は、原則とられません。(行政書士業務の中には、例外もあります)

不動産登記においては、単独申請と言われる概念に近いと思います。

行政書士業務の場合、構造的には、商業登記法の構造により近いのです。


一方、権利義務に関する書類はどうなのか?

例えば、契約書や遺産分割協議書を考えてみます。

これらは、私達が日常的に依頼を受けて作成している書類ですが、

何のために作成しているのか、ご存じですか?


もちろん、役所や銀行に出すため、とかの目的もありますが、

その終局的な目的は、民事訴訟で勝訴する”証拠作り”なんです。

裁判官は、自由な心証によって証拠を認定します。

そんな裁判官に対しても、これは間違いない、と思ってもらえる書面を作ることが、

行政書士の仕事なのです。


もちろん、実際に私達が作る書類が「甲1号証」(裁判所に出す書証)になることは稀です。

しかし、訴訟において白黒を付ける書類を作ることで、

相手に訴訟を起こさせない、という効果が達成されるのです。


民事訴訟法学会の大家、新堂幸司先生という方がおられます。

新堂先生が、「当事者」という論点の中で、

規範分類説という特殊な学説を唱えております。

この規範分類説、民事訴訟法学界での地位は知りませんが、

私は個人的に、ハッと気づかされる卓見だと思いました。


おそらく、近代のドイツの哲学に影響を受けた学説だと思うのですが、

規範(~しなければならない)には、2種類あるのです。

一つは、事前規範たる、行為規範。

これから、ある行為をする際に、当事者の目線でどうすべきなのか、を問う規範です。

もう一方が、事後規範たる、評価規範。

ある行為を行った者に対して、第三者がそれをどう扱うべきか、を問う規範です。

この二つの規範に関しては、明確に分離した上で物事を考えるべきである、と思います。


物権法で、中間省略登記という論点があります。

基本書を読むと、この問題に関して、必ず二つの見方をしているはずです。

①中間省略登記はできるか?

②なされてしまった中間省略登記の有効性

①は行為規範に関わり、②は評価規範に関わります。


行政書士の実務には、受験勉強の内容なんて一切関係ないと思っている人もいますが、

そんなことはありません。

ほとんどの法律科目が、実務遂行において関連してくるのです。


許認可業務を行う際は、私は登記法を意識しますし、

権利義務に関する業務を行う際は、訴訟法を意識しています。

どちらも、行政書士試験の科目ではありませんが、

行政書士として許認可で食っていきたいなら、最低限の登記法を理解しておくべきですし、

また権利義務に関する業務で食っていきたいなら、

最低限の訴訟法の基礎を理解しないと、

”社会に有害なゴミ行政書士”になって、国民に迷惑をかけます。


書式本丸写し程度の契約書では、

訴訟でも勝てない(評価規範としても機能しない)し、

契約が履行されない(行為規範としても機能しない)のです。


多少なりとも社会に有用な行政書士になりたいのでしたら、

弁護士、司法書士等の実務家が有する法律知識を、

”最低限の教養”として有していないといけないのです。