「『週刊文春』は今年2月、宝塚歌劇団に所属していたAさんが“上級生からヘアアイロンを額に押しつけられるといったいじめ行為があった”と報道。その後、9月末にAさんは自宅マンションから転落死しました。いじめ報道後もAさんは執拗な嫌がらせを受け続けていたそうですから、いじめを苦にした自死の可能性が高いとされています」(スポーツ紙記者、以下同)
生徒と呼ばれているが、雇用形態は会社員と同じ
一方、宝塚側は10月7日の会見で“内部調査の結果、いじめはなかった”と報告している。
「宝塚歌劇団の清廉潔白なイメージを崩したくないのでしょう。しかし、このまま今回の騒動によって明るみに出た“暗部”を自浄できなければ、創業者による所属タレントへの性加害で“解体”を余儀なくされたジャニーズ事務所の二の舞いになりかねません」
宝塚歌劇団は来年で創立110周年。女性のみで構成された華やかなステージに魅了されるファンも多い。当然、トップスターに憧れ、宝塚の門を叩く若者は後を絶たない。
「宝塚歌劇団に入るには、高倍率で知られる『宝塚音楽学校』に入学しなくてはなりません。この学校は2年制で、“予科生”と呼ばれる1年生は、“本科生”と呼ばれる2年生からタカラジェンヌになるための心得や所作などを叩き込まれます」(宝塚関係者、以下同)
歌や踊りなどのカリキュラムを終えて卒業することができれば、晴れて宝塚歌劇団に所属となる。
「入団1年目は“研究科1年”とされて、年数に応じて研1、研2、研3となっていきます。入団後も“生徒”と呼ばれ、基本的に学校生活の延長なんです。年功序列もそのままで、入団してから日の浅い新人は、公演のレッスンとは別に雑務や、先輩のお手伝いなどをこなさなければなりません」
生徒と呼ばれているが、雇用形態は会社員と同じだ。
「入団したタカラジェンヌたちは阪急阪神ホールディングスの社員となります。役職名も演技者を指す“技芸員”と称され、給与も固定給です」
そんな彼女たちの扱いが大きく変わるのは研6。つまり入団6年目からだという。
「研6以降は全員、社員からタレント契約に切り替わります。ここで明らかに実力が足りないと判断された団員は、契約を結んでもらえないこともあります」
契約書に書かれていた衝撃の内容
劇団と団員が合意のもとで契約書を交わせば、研6以降もタカラジェンヌとして活動を続けることができる。しかし、この契約書が“ブラック”なのだという。
「少なくとも、10年ほど前の契約書には“自身が出演する公演のチケットとDVDを一定数以上、自腹で購入して直売します”といった“ノルマ”が明記されていたんです。これが団員たちにとって大きな負担になっていました。購入したチケットやDVDを売る自信のない団員は、契約を交わさず引退するケースも少なくありませんでした」
自腹の負担額は具体的にどれほどなのか。
「トップスター、つまり1番人気の団員は1つの上演作品で100万円は優に超えます。その負担額は、セリフや出番の多い役から順に2番手、3番手と低くなっていきます。団員の多くは1年で3作品前後に出演して、その都度、負担がのしかかりますので、どの団員にとっても金銭面の負担は大きいんです」
自腹で購入した大量のチケットやDVDを団員たちはどうやって売りさばくのか。
「以前、とある小売店の社長令嬢が団員として在籍していたのですが、親の会社がチケットをまとめ買いしていたのか、お店のプレゼント企画で頻繁に宝塚のチケットが出されていたんです。裕福な家庭に生まれた団員は有利なんですよ」
多くのファンを抱える人気タカラジェンヌであっても、自腹購入分をさばくのには苦労するという。
「“ノルマ”をこなすためにファンの心をつなぎ留めなくてはいけませんが、宝塚歌劇団は個人の公式ファンクラブは許さず、専属マネージャーといったスタッフも就かせません。そのため、トップスターであっても、有志が運営している私設ファンクラブがノルマをさばく頼みの綱。個人の裁量で行わなくてはいけないので、負担が大きいのです」
経済的に重すぎる負担だが、劇団が団員に求めているのは個々の“集客力”だという。
「団員たちが音楽学校で教わってきた歌や踊りはすべて、集客力を上げるための手段とみなされます。なので、契約書で課せられた以上の枚数のチケットやDVDを売りさばく団員であれば、より良い役に抜擢されます。一方で、集客力がない団員は、セリフもない端役ばかりになって最終的には契約も更新されず“卒業”扱いになります」
元宝塚関係者によると、“年間で40人の団員を辞めさせることが運営側の責務”といった“悪習”が蔓延しているという。
「厳しい年功序列や高額な自腹営業など、団員が自ら辞めざるを得なくなる不条理な仕組みが宝塚には多くあります。“厳しい競争を勝ち抜いた逸材だけがトップスターとして利益をもたらす”という考え方が宝塚歌劇団なのでしょうが、団員の精神面、金銭面の負担が大きいのも事実。劇団内でのいじめ問題も、このような環境が一端を担っているのかもしれません」
団員と交わす契約書には自腹購入に関する項目があるのか。劇団に問い合わせると、「そのような事実はございません」と回答した。
きらびやかなショーの裏側に巣くう闇。文豪ヨハン・ゲーテの言葉どおり、“光の多いところには、強い影がある”ようだ。
週刊女性も前号で宝塚歌劇団とタレント契約した団員がチケットやDVDを自費で購入するといった“ブラック契約書”の存在を報じている。
一連の騒動について、宝塚への取材歴があるライターの和久井香菜子さんに話を聞いてみた。
「内情を直接見たわけではないですが、私を含めてファンはみんな団員のことを心配していますし、彼女たちの幸せを願っています」
宝塚への愛は変わらないと和久井さん。宝塚の魅力は“美しいもので満たされていること”と語る。
「女性の夢と理想にあふれた舞台なので不快な思いをする要素がいっさいありません。ほかにも、退団する団員には花を持たせていい役をくれたり、同期で組んでダンスをするなどの団員同士の関係性を活かしてファンを喜ばせてくれる演出も魅力の一つです」
長い歴史で培われた体制や価値観ゆえに
元タカラジェンヌたちの印象も語ってくれた。
「私が知っているOGたちは、宝塚に所属していたことを誇りに思っていました。プライベートでもスター性がある方ばかりです。関係者で宝塚のことを悪く言う人を私は見たことがありません」
多くの人を魅了し続ける宝塚だが、その美しさがかえって内部に潜む問題の解決を遠ざけているのかもしれない。
「問題視されている厳しい上下関係や指導が、タカラジェンヌたちの洗練された美意識や神秘性につながっていることは否めません。来年で110周年と長い歴史で培われた体制や価値観ですから、すぐに変革することは難しいのでは」(前出・スポーツ紙記者)
そんな保守的な宝塚でも無視できないのは、スポンサーとの兼ね合いだろう。
「人気のあるタカラジェンヌは、企業と広告契約しているケースがあります。しかし、宝塚の暗部が明るみに出た現在は、スポンサーが撤退する可能性も否定できません」(広告代理店関係者、以下同)
いじめ事件の報道後に発行された旅行情報誌の表紙には、Aさんへのいじめに加担したと報じられた劇団員の姿が。↓
「この情報誌の発行元は『阪急交通社』という阪急の子会社。スポンサーではありませんが、いじめに加担していた劇団員を表紙に起用しているのであれば、問題視されてもおかしくないでしょう。外部のスポンサーだと、30年以上も協賛し続けている『三井住友カード』が挙げられます。会員限定で公演の観覧に応募できる特典を設けたり密接な関係を築いています」
これまでの報道を受けて、各社はなにかしら対応を取るのか。阪急交通社に問い合わせるも期日までに返答はなかったが、三井住友カードは、
「現在、外部弁護士による調査チームが調査を行っている旨、説明を受けております。調査チームの回答を共有していただけると認識しておりますので、現時点で未定です」
とのことだった。
“乙女の花園”の未来は、スポンサーに委ねられているのかもしれない。