大根は野菜の「主役」
料理の幅が広い大根
猛暑、酷暑の夏が終わり、肌寒い日が増えてきました。いよいよ大根がうまい季節になってきました。かつて、神田市場で大正15年から約70年間、青果の仲卸業をしてきた人に聞いた話を思いだします。市場で働き出した当時は、「ねぎと大根の二つあれば八百屋ができたんですよ」。
現在の八百屋さんやスーパーマーケットに並んだ野菜の種類を考えると、隔世の感があります。当時は近在の農家が大八車に野菜を積んで運んでくることもあった時代ですから、野菜の種類も少なかったのも当然でした。そのような時代の制約があったことが大きいのですが、それだけではないと思います。たとえば、大根さえあれば、ごはん、味噌汁(大根)、たくあん、ふろふき大根、切り干し大根の煮物と言う献立が成り立ちます。その他、和え物、煮物、お浸し、炒め物、そしておでんや鍋物などどんな料理にも合ったことが大きいと思っています。
そして、当時は「霜枯れ時」の問題がありました。寒くなる1月から2月頃に収穫される野菜は極めて少なく、市場でも何も売るものがない日もあったと言います。当然、消費者も野菜不足になります。それを防いでくれたのも大根でした。
江戸の庶民は「たくあん」で生きてきた
約40年前、私は青果市場でアルバイトをしていました。冬になると大根が増えると同時に、「干し大根」が大量に入ってきました。「切り干し大根」ではなく、大根を丸のまま干したものです。それは「たくあん」を漬けるためのものです。江戸時代のたくあん作りの風景を描いたもの見ると、とんでもなく大きな樽が描かれています。大店(おおだな)で従業員がたくさんいるところなどはそのくらい大きな樽で漬けていました。
たくあんと言うとなんとなく田舎の漬物というイメージを持つ人がいるかもしれませんが、そうではありません。典型的な江戸(都会)の漬物です。なぜなら、たくあんを漬けるには、「米ぬか」が必要だからです。白米が常食されてなければ、米ぬかはとれません。当時、米だけで空腹を満たせたのは、江戸や大阪など都会だけでした。
ただし、白米に精製するとぬかの部分が捨てられてしまうため、ビタミンB1の欠乏による脚気が流行り、徳川幕府の将軍や姫様などが亡くなっています。昭和になってもたくさんの人が亡くなっています。ところが庶民にはこの病気は多くはありませんでした。それはたくあんが常食されてきたことにあったと考えられています。
私は外出する際、弁当を持参することがあります。その際、たくあんを入れることが少なくありません。他の漬物の場合、時間を置くと発酵が進んでしまい、まずくなってしまうことがあります。その点、たくあんは冬から春先き、あるいは一年を通して食べられてきたため、保存の知恵が生かされています。そのため、弁当に入れてもまずくなることはありません。
これから寒くなったら、大根を積極的に食べましょう。時間がないときには、薄い輪切りにして酢と醤油をかけて数分置くだけ、それでも充分に美味しい一品になります。
以上、
今後はサバイバル時代になりそうですから、
ぜひ健康に注意して、心を乱さず、対応してゆきましょう。
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