松田優作の初監督作品「ア・ホーマンス」が公開されたのは1986年。
もともとは別の監督で撮影が始まっていたが、優作氏と映画に対するニュアンスが異なり、結果降板。
優作が監督を引き継ぎ、完成させた。
この監督をすることになった事情が、「北野武」と似ている。
当初は深作欣二監督で予定されていた「その男、凶暴につき」だが、スケジュール等の折り合いが
つかず、深作降板、「北野武」が監督として作品を引き継いだことになっている。
どちらもまぁ(あくまで表向きではあるが)期せずして、「監督」デビューを果たしたことになる。
先に観たのは、もちろん公開年数の早い「ア・ホーマンス」である。
当時の優作氏は「陽炎座(監督:鈴木清順)」あたりから始まる、アクション俳優から
「演技派」俳優への移行時期であり、「家族ゲーム」「それから」といった作品で
その演技に対する評価を高めていた。
そこで届いたニュースが、松田優作初監督作品「ア・ホーマンス」で、「アクション映画」として
宣伝をされていた。
残念乍ら、私は公開時には見れず、のちにビデオで鑑賞した。
第一印象は「なんて静かな映画なんだ」ということ。
あらすじをざらっと紹介すると…
二つの暴力組織が抗争を繰り広げる町「新宿」。
そこにオートバイで現れる謎の男(松田優作)。
大島組幹部、山崎道夫(石橋凌)はなんのしがらみも感じさせないその男に
心魅かれ、「風(ふう)さん」と呼び、仕事を与える。
抗争は激化し、大島組の親分が射殺される。当然報復に出ようとする山崎だが、
新たに組を束ねた藤井(ポール牧)は、手打ちに持ち込んでしまう。
計算高い藤井のやり方に納得できない山崎は、単独で報復に出ようとする。
それを許さない藤井は逆に山崎をばらそうと、ヒットマンを山崎に送る。
しかし山崎は単独で敵組長を殺害。しかし藤井の手先によって撃たれてしまう。
それを見ていた「風」はヒットマンを追跡、亡き者とする。
というアクション映画の要素は満載なのだが…映画は安易にそこには流れない。
全体的に温度の低いシーンが続き、爽快というよりも映画全体の印象は「不気味」ですらある。
実は初見のとき、私は非常にがっかりしたのだ。
つまりこの作品を「つまらなく」感じたのだ。
この映画の優作は完全なデクノボーである。
遊戯シリーズのように、派手に動き回ることはなく、ラストのヒットマンに対する
「風」の報復は、1人称のカメラで表現され、優作はほとんど映らない。
(だから印象的でもあるのだが)
松田優作監督のアクション表現は「肉体から生み出されるもの」からは大きく距離をとり、
より内面の表現へと向かっている。
その表現方法が、「北野武」と共通するところが多いと私は思うのだ。
つづく。
