violent cop


映画監督・北野武のデビューは89年。

その当時「笑いの王」としてのビートたけしはやや低迷していたように思われる。

「その男、凶暴につき」公開の1月後に「オレたちひょうきん族」は放送を終了している。


ビートたけしの熱狂的ファンであった私は、彼の笑いのポテンシャルが落ちつつあったのを

なんとなく肌で感じていたため、「ビートたけし監督デビュー」の報道がされた際には

非常に興奮した。新しいビートたけしが見れることに興味を引かれた。


やはり当時の雰囲気としては、監督・ビートたけしに期待するのは「喜劇」であったと思う。

フライデー事件等で彼のシリアスな一面はもちろん世間にも伝わっていたであろうが、

あくまでたけしは「お笑い」の人間であり、彼の監督作は「笑えるもの」だと予想していたのだ。


「その男、凶暴につき」は満員の映画館で立ち見で鑑賞した。

映画の前半、場内は笑いに包まれていた。そして後半観客は画面に集中し、

明らかに背中に冷たいものを感じながら(私は「畏怖から生まれる冷たさ」を感じたのだが、中には

「なんじゃこりゃ」と寒いものを感じていた人もいただろう)、その暴力描写に目を奪われていた。


「その男~」の内容の説明はここではしないが、前半は笑いの要素(極めてブラックではある)が

作品内に点在されていて、その鮮烈な暴力描写とのメリハリでもってかなり笑えたのだ。


例えば、我妻刑事が逃走する犯人を車で追い詰め、思わず轢いてしまうところなど、

大爆笑であった。しかしそれがほんとに空恐ろしい描写であることは間違いない。


私は2回連続で見たが、ラストの展開とその描写力を知り得た分、2度目は笑うことなどできず

その映画の不気味さがなお際立ち、緊張して「北野武」のデビュー作を観ていたのである。


そしてこう思っていた。


「松田優作の監督作『ア・ホーマンス』に似ている…」


映画監督・北野武が誕生した1989年。

その年の秋「ブラックレイン」が公開。

そのフィルムの中で一番輝いていた「松田優作」は1989年11月6日に

この世を去った。


つづきます。