オランダのHR/HMバンドで最も知られているのはVANDENBERG、日本人好みのメロディと侘び寂びを感じさせる楽曲、そしてエイドリアン・ヴァンデンバーグの奏でる繊細かつ慟哭のギターはシェンカーにも匹敵、日本でも人気があった。
だがオランダには彼らの前に、もうひとつの大物がいた。オランダ最古のHR/HMバンドと言われるPICTURE。


PICTURE


79年にヒルフェルスムで結成される。
80年「PICTURE」でデビューするが日本ではまだ誰もこのバンドのことを知らない、オランダのメタルシーン自体誰も知らなかったはず、GOLDEN EARRINGとかFOCUS、SHOCKING BLUEなど世界的に有名なバンドはすでにいたのだがメタルバンドは他になかった。VANDENBERGのデビューが82年、それ以前など当然知らなかった。

PICTUREのことを知るのはこのアルバムから。
このジャケが強烈に目を惹いた。まださほどHR/HMを意識していなかったころ、ロックもポップスもまとめて洋楽としか考えてなかったころの事。81年の2nd。


HEAVY METAL EARS


当時流行りのNWOBHMの波に乗って日本でも発売された。その際ジャケを変更していて、日本人画家によるジャケ画が素晴らしかった。「塩谷博明」という静岡出身の有名なイラストレーターが手掛け、地味なオリジナルと同じ内容とは思えないほど。この変更は大成功の好例。買う気にさせる。
これがオリジナル。

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VANDENBERGが日本人向けのメロディアスなバンドであったのに対しPICTUREはもっとNWOBHM直系の荒々しい感じ、ノリとリフ重視のハードドライヴィングロックといったところか。シンプルながらHR/HMのカッコ良さが凝縮されていて、しかも甘くなりすぎない程度にメロディにもこだわりがあってメタルとしてのバランスが申し分ない。Voのワイルドさも良い効果を生んでいる。
心をえぐるような感動はないがメタルのカッコ良さでは同時期の有名バンドに比べても決して負けていない。オープニングの “Heavy Metal Ears” は代表曲中の代表曲。硬派な中にも耳に馴染むメロディが心地よい。
以降も良曲の嵐、スペインのBARON ROJO、フランスのTRUST、スウェーデンのEF BANDなどと同様にイギリス本国以外のNWOBHMバンドとして楽しめる。
特にこのアルバムはマイナーメタル史に残る名盤。

82年の3rd。残念ながら日本発売は見送られた。
これまたジャケ違いが存在、フランスのCARRERE盤がジャケはおろかアルバムタイトルまで替えて発売、新作と勘違いして二枚買ってしまうメタル者が続出、混乱を招いた。
持ってるのはそのフランス盤。


NIGHT HUNTER


オリジナルタイトルは「DIAMOND DREAMER」。
前作同様NWOBHMそのままの音、CARREREからの発売ということもあってオランダのSAXONといった趣もある。
やはりメロディにも強いこだわりを見せ、耳を惹くフックも十分に備わってはいるがVoの声質や曲調にやや荒さがあってSAXONに比べると粗野な印象が強い。もっとMOTÖRHEAD的な成分が多く含まれているのかもしれない。
シンプルかつ骨太なメタルの原点を感じさせてくれ、さらに要所にスピーディな曲を配して単調になりそうなアルバムの締まりをよくしている。特にA-5、A面を締める “Message From Hell” はいいな、A面を締めつつB面へ誘う感じが。
B-1の “You’re All Alone” もツインギターのメロディが印象的な良曲。

83年、4th。


ETERNAL DARK


数あるドクロ系ジャケの中でも屈指の名ジャケ。
再び日本盤が発売される。邦題は「暗黒の髑髏」
日本盤には帯が付いてて、そこに邦題とか煽り文句、いわゆる帯叩きというものが書かれているのだがそのアルバムを盛り上げる大げさな一文が書かれていることが多い。
この「暗黒の髑髏」の叩きは。。

ズダダ・ズダダ・ズダダ・ズダダ!!
ダン・ダン・ダン!!ガガーン!!


なんやそれ。

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大幅なメンバーチェンジがあり創設メンバーであるヤン・ベックタムが脱退、Voもピート・ローヴェルに替わって5人編成となった。
前作までの印象を吹き飛ばす快作。基本路線は同じながら、どこか単調というか古臭さの否めなかったPICTUREが殻を打ち破った。70年代風の粗野なハードロックからソリッドなメタルバンドになった。なにより曲が良くなった。
1曲目の “Eternal Dark” 聴けば一目瞭然、一聴瞭然か、重いリフに強力に耳を引くフックが曲の良さを実感、すかさずスピーディな2曲目に入る構成も見事。
MOTÖRHEADやSAXON風な粗さからからJUDAS PRIESTを感じさせる要素が増えた印象。甘くならない男臭くて力強いメロディがメタル好きを興奮させる。世界レベルで戦えるバンドになったと思えるような大きな成長を見せてくれる。
バンドの個性を確立させた「PICTUREといえばこのアルバム」と自信を持ってお勧めできる。

以降も活動停止や再始動を繰り返しながら現在も存続、5枚のアルバムを発表、大きく音楽性を変え別バンドのようになったと言われている。特に5thアルバム「TRAITOR」で激変、メタル要素はなくなり産業ロックっぽくなったとのこと。
86年の6th「EVERY STORY NEEDS ANOTHER PICTURE」はさらにPICTUREらしさ減退、もはやメンバーに誰がいるのかさえ分からない状態らしい。元VANDENBERGのVo、バート・ヒーリンクもこの時期に関わっている。
87年の7th「MARATHON」でそのバートが正式加入、そして解散、80年代最後のアルバムとなった。

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オランダを代表するバンドでありながら日本ではVANDENBERGの影に隠れて一般的にはほとんど知られていない。NWOBHMの流れをくむヨーロピアンHR/HM好きなら初期のアルバムは押さえておいたほうがいい。HAMMERFALLが “Eternal Dark” をカバーしたことがあるほど後世にも影響を与えている偉大なバンドだ。
2012年の「WARHORSE」は最新作。



“Heavy Metal Ears”


“You’re All Alone”


“Eternal Dark”


“Griffons Guard The Gold”


追記:
5thと6thが一緒になってCD化されてるの見つけたから買ってみた。カットなしでお得。


EVERY STORY NEEDS ANOTHER PICTURE


MARATHON


元VANDENBERGのバート・ヒーリンクが歌うこの2枚、明らかに今までのPICTUREとは違う。Voが替わって印象が違うというより音楽性が根本的に変わってる。リフで押す感じはなくなり、Keyが多用されメロディアスハードとも言えるようなソフト路線になった。メタルのパワーやスリルは失われたがフックのある良曲が連発。
B面にアメリカンで軽薄な曲が集中、でもZZ TOPみたいな “She Was Made For Lovin’” ですら曲自体は悪くない。ただし全体的に音質が悪くてメジャー感はあまりない。
「MARATHON」も同路線。



“Battlecruiser”


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