スイスの邪神、CELTIC FROST。超大物、大魔王クラスのメタネタ。彼らが後世のデスメタル、ブラックメタルに与えた影響はあまりにも大きい。当時隆盛を極めたスラッシュ/パワーメタル系の中でも最も邪な部分を強調したバンドで、自身も影響を受けたVENOMからバカっぽさを取り除き凶悪さだけを受け継ぎ、より邪悪で不快な闇へと入っていった上級悪魔だ。
暴力的で少々ガチャガチャした雑な音楽性を信条とした初期はカッチリしたタイプのスラッシュメタルとは対極の方向性を持っていたが、決して音楽的に稚拙さや単調さは感じず、よく聴くと曲構成などにもかなり気を使っていることが分かる。頭脳であるトム・G・ウォリアーの豊かな才能を感じさせる。
でも簡単に言えば、サバスとMOTÖRHEADとVENOMをミキサーにかけるとCELTIC FROSTになるよ。


CELTIC FROST


チューリッヒ出身のHELLHAMMERを母体とし1983年にトム・G・ウォリアーことトーマス・ガブリエル・フィッシャーを中心に結成されたトリオ。
HELLHAMMER同様、初期のNOISE RECORDSから6曲入りEPで84年にデビューする。


MORBID TALES


暴力的、そして邪悪で禍々しい音楽。ベイエリア系などの整合感のあるスラッシュメタルとは間逆の、もっと以前の雑で騒々しいスラッシュ/スピードメタルが好きなら必ず聴くべき。VENOMやEXCITER、初期の所謂ドイツの三羽ガラス、DESTRUCTION、KREATOR、SODOMなんかに近く、しかも彼らほどヘタではないから安心して聴ける。CELTIC FROSTと言えばこれ!という古参ファンも多いのではないだろうか?
エクストリームメタルの祖として崇められ、後に影響を受けたと公言するエクストリーム系ミュージシャンは数多い。COBのアレキシも彼らに多大な影響を受けた子孫の1人で、彼の「ウッ」はこのCELTIC FROSTのトム・G・ウォリアーの完全な真似だ。(トムはクロノスの真似をしたのかもしれないが)
現在はフルアルバムの形態で発売されている。

85年の2nd5曲入りEP。Drのステファン・プリーストリーが脱退、リード・セント・マークが加入する。


EMPEROR'S RETURN


名曲 "Circle Of The Tyrants" で幕を開ける名盤。
音楽的方向性は1stEPと同じ。ただしこのEPはデモかなんかをNOISEが勝手にレコード化したとかで後にトム・G・ウォリアーが怒っていたような記憶がある。
そんな内部事情に関係なくとても良い作品で、1stとセットで聴くといい。実際2 in 1でCD化されてたと思う。

HELLHAMMER時代からトムを支えていたBのマーティン・エリック・アインが脱退、ドミニク・シュタイナーが加入。
そして85年に1stフルアルバムを発表する。


TO MEGA THERION


エイリアンのデザインで有名なH.R.ギーガーの作品をジャケに使い、しかもダブルジャケットと気合いの入ったアルバムを出してきた。初期CELTIC FROSTの完成形。



彼らはバンドイメージに強いこだわりを持っていた。ルックスももちろん、ジャケにもこだわって安っぽいイメージにならないように気を使っていたことが分かる。
直線的だった1stのころに比べると、より複雑になってプログレッシヴな方向へ向かっているように思える。独特の敷居の高さがあって取っ付きにくい音楽だが、完成度は異常に高い。魔性の興奮や緊張感がある。
名曲 "Circle Of The Tyrants" も改めて収録。



86年に「TRAGIC SERENADES」と言うEPを出した後、いよいよCELTIC FROSTも日本デビューの時が来た。
ジャケにヒエロニムス・ボッシュの有名な画「快楽の園」の一部を使い、さらに今回もダブルジャケット仕様、マーティンも復帰して堂々の日本デビューを飾る。
87年の2ndフルアルバム。


INTO THE PANDEMONIUM


これが強烈な問題作だった。前作の難解な部分だけを取り出して初期のメタルの激しさを極限まで薄め、女性ボーカルを多用したり変わったリズムを取り入れたりして、曲によってはもはやメタルはおろかロックですらないようなのもあり非常に前衛的、アバンギャルドな作品を作り上げた。
実験的な要素の強いアルバム。
どの曲が良いというのはないが、完成度は前作以上に高い。
スラッシュ?とんでもないよ。



この作品で彼らを知った日本では「スラッシュメタルと言われていたのになんだかよく分からない変なバンド」というような、あんまり良くないイメージが付いてしまった。B!のレビューで高得点が付いていたにもかかわらず、そんなに売れたって話は聞かなかった。
独特の緊張感や入り込みにくさがあって気軽に聴ける音楽ではないが、これまたとても高度な音楽だと思える。時代を超えた音楽とでも言えるだろうか。当時も今も未来にも、古さを感じずに聴ける音楽なのかもしれない。
でもあんまり積極的に聴こうとは思わない。



そして88年、さらに前回の問題作が全然問題にならないほどのとんでもない問題作を出してくる。


COLD LAKE


マーティンが再び脱退。リード・セント・マークもいなくなった。彼はこの後MIND FUNKというクロスオーヴァー系バンドに参加。そのかわりステファン・プリーストリーが復帰。もう1人ギタリストを加え4人編成となった。
LAメタルのような華やかなファッションに身を包み髪を盛り上げ、にこやかにポーズをとるトムに姿に初期からのファンは嘆き悲しんだ。


Before


After

同じバンドの写真とは思えん。強烈な路線変更。
別バンドと考えれば内容は決して悪くない。当時リアルタイムで買ったが、衝撃を受けつつも異常に難解だった前作よりもずっと聴きやすくて割と愛聴していた。
頑張って明るいR&Rを演ろうとしているのに明るくなりきれないところが笑える。

しっかしまあ、すんごい変わりよう。「TO MEGA THERION」「INTO THE PANDEMONIUM」そしてこの「COLD LAKE」は同じバンドのアルバム、音楽とは思えない。トムが自ら望んだことなのかレコード会社の指示だったのか、でも今改めて聴くとこの3枚にはどこか共通点と言うか、共通の流れのようなものも見える。歌っているのがトムであるということももちろんだが間違いなくどれもCELTIC FROSTが生み出したアルバムで、この3枚のうちに彼らが異常なスピードで進化しただけであって聴き手がそれに付いていけなかっただけなのだ。奥底の部分にはCELTIC FROSTらしさは残されている。
でもそれは今だから思えること。当時はひっくり返った。

Gのオリバーが脱退、オリジナルメンバーのマーティンが復帰しての90年、4thアルバム。


VANITY / NEMESIS


CELTIC FROSTが確立したアバンギャルド且つアンビエントな独自の世界観、そこに初期の暴虐さ、そして不評だった前作さえ無駄ではなかった、あれもCELTIC FROSTの一面であると思える歴史を総括したような傑作。
PVも制作された “Wine In My Hand (Third From The Sun)” はCELTIC FROSTらしさ溢れる良曲。



この後解散、2000年代に入って再結成、アルバムを出した後再び解散、現在トムはニューバンドをやっていたはず。
再結成したときに来日していたが、今思うと観ておきたかったと思う。

こんなのもあった。


PARCHED WITH THIRST AM I AND DYING


92年に出た貴重音源を数多く収録したコンピレーション。各時代全然違う音楽性でありながらひとつの作品として成り立つ、これはやはり根底に流れているものが同じだからなのだと思う。
スラッシュとかブラックメタルとか表面的なカテゴライズは無意味、そんな単純なものではない。CELTIC FROSTは簡単には理解出来ない芸術作品に似てる。

ある意味、極めたバンドだった。メタルの歴史の最も深い闇の部分に記録され、そしてそれを受け継ぐ邪悪な子孫も数多い。現在のブラックメタル系のバンドは全て彼らの子供たちであると言っても過言ではない。



"Into The Crypts Of Rays"


"Circle Of The Tyrants"


"Mexican Radio"


"Cherry Orchards"


"Wine In My Hand (Third From The Sun)"


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