今でこそネット上の中古盤屋になってしまったが、昔は休みの日にはよく名古屋あたりの中古盤屋に出かけていた。
これを買いに行こうという目的がある訳じゃない、見つけた物、あった物を買う。一種の宝探しみたいなもん。安価で良い物を探すのが楽しかった。
まず第一にHR/HM系であること。なんだかよく分からないレコードでもジャケがメタルっぽかったり、メンバー写真、バンドロゴ、あるいはレーベルなんかで判断したりしていた。ジャケ買い、レーベル買いの知識はこのころ威力を発揮していたな。もう15年ぐらい前こと。


АЛИСА


そんな猟盤中に困りに困ったレコードがあった。確か名駅前のバナナレコードだったと思うが、特にこれといった掘り出し物もなく、何かを無理矢理買おうとしていたときだった。HR/HMのコーナーにあったからたぶんそれ系だと思う。ジャケもそう思えばそれらしく見えてくる。しかしバンド名もタイトルもなにも読めない、全部ロシア語で書いてある。買おうか買うまいか長いこと迷っていたような覚えがある。
1つだけ分かったのはメロディア。



これはソ連の国営レーベルで、ソ連の音楽、というか当時のソ連のレコードは全てここから出ていた。ジャンル関係なし。だからレーベルでジャンルの判断は出来ない。迷いに迷って結局買った。安かったのと珍しさもあって。
当時はまだソ連とか東欧とか南米とか、英語圏以外のバンドのレコードはあんまり見かけなかった。知識もなかったし。ひょっとしたら貴重な物かもしれんし。
で、聴いてみた。


ШЕСТЙ ЛЕСНИЧИЙ


ロックではあったがメタルにはほど遠い、軽薄なダンスミュージックというかニューウェーブというか、そこにロシア語の歌が乗るなんとも珍妙な音楽だった。サックスみたいな音も入ってる。
「こりゃ失敗したな」「ま、安かったからいいか」「もう2度と聴くことはあるまい」などと思いつつ聴いていたら2曲目でハードな響きのエレキギターが登場、ちょっとハードロックっぽくなってだんだん耳を惹き始める。
そして大仰なKeyのイントロで始まる3曲目。突然入る女性Voに極楽気分を味わった。暗いのか明るいのかよく分からん曲だが心に響いたよ。
さらに続く4曲目。この寂しさ、切なさは異常。暗い部屋で独りで聴いてると死にたくなるほどの強烈さ。
B面にも良曲が並ぶ。ヘヴィメタルではなかったが聴き終えるころには買って良かった思うようになっていた。どういうバンドなのかとても気になったが、バンド名さえ読めないから調べようがない。

そのまま長い年月が流れ、ずっと忘れていたが今日それが分かった。よく観てる中古盤屋にそれがあったからだ。驚いた。ひさしぶりに思い出したから。しかも945円。別に貴重でもなんでもなかったみたい。
АЛИСА、ALISAか!やっとバンド名が分かった。「アリーサ」と読むのか。調べたらいろいろ分かってきた。これは89年の3枚目のアルバム。20枚近く出しているソ連/ロシアの人気バンドらしい。83年に結成され長い活動歴の中で、ニューウェーブ系の音楽からHR/HM系の激しい音楽へと変化していった。

たまにこういう本来のメタルの様式からド外れたHRを聴くのも良いものだ。ロシア語の違和感はもちろん、英語圏の音楽とは根本的にメロディの発想が違うような気がする。
国によって独特のメロディというのは間違いなくあってロックバンドであれそれは同じ、イギリスっぽい音、ドイツっぽい音、スペインっぽい音、北欧っぽい音、ロシアっぽい音というのはやっぱあるよ。



tube探したらあった!いっぱいある。国民的バンドぐらいの大物なのかもしれん。
これが当時聴いて笑った1曲目。


"Новый метод"


女性Voがたまらない3曲目。


"Шестой лесничий"


哀しげで寂しくて倒れた4曲目。


"Театр Теней"


これはメタルっぽくなった最近の曲。どのアルバムに入っているのか不明、2003年ごろかな。


"Небо Славян"


同曲のライブ。英訳すると「The Sky Of Slavs」、スラブの空。日本人には計り知れない、とても深い意味があるのだろう。調べたら2003年の「Сейчас Позднее, Чем Ты Думаешь」というアルバムに収録されている。


"Небо Славян"


こんなのもあった。


"Небо Славян" в исполнении группы "Федорино горе"


同曲の女性コーラスによるカヴァーだろうか?詳細は不明、いずれにせよ西側とは違うメロディがたまらない。これはあれだ、「ポーリシュカ・ポーレ」聴いて涙したのと同じ感覚。


追記:安くで見つけたからもう一枚買ってみた。
85年、これが1st?


ЭНЕРГИЯ


「ENERGY」の意。曲タイトルの英訳が書いてあってありがたい。Voの名もコンスタンティン・キンチェフと判明した。
3rd以上にHR/HM要素の乏しい音楽ではあるが、そんな視野の狭い聴き方でなく広い意味でのロック、いや音楽として聴けばこれもまた良き。やはり米英の音楽とは根本的な発想が違うような奇妙な音楽。古臭いのに前衛的な、レトロフューチャーと言うか。
プログレやサイケな変さともちょっと違うような気がする。ロシア語が異世界感をさらに増幅。良い曲かどうとかより聴いてて面白いし興味深い。
例によってキーボード(ホンキートンクピアノ風もある)やサックス、女性Voなども多用されていて、暗かったり軽快だったりなんでもありな音楽性。



しかし西側に比べてジャケの紙質が悪いなぁ。
よれよれだ。



"Энергия 1985 год (Альбом целиком)"