日経新聞の朝刊の見出しに、「相次ぐ会計不祥事 監査報告 プロセス開示へ 20年めど 投資家に判断材料」とありました。ちょっと残念。「相次ぐ会計不祥事」と「20年めど」はあってたんですけどねえ。

 

 どんな記事かというと、「監査法人が企業の決算を監査した際に作る監査報告書を、金融庁は今後、今より詳しく書かせますよ」って話です。

 

 現在は監査報告書の結論のページに、「完全OK」「だいたいOK」「アウト」「監査不能」の4種類のコメントのどれかを書けばよかったんですけど、今後は、どういう根拠で「OK」にしたのか、どの辺がダメだったから「だいたいOK」だったのか、きちんと書けよ、って話です。

 

 さて日経によると、どういう風に監査を進めていったのかや、企業と監査法人の意見のぶつかり合いの過程が「見える化」することで粉飾決算がなくなる、ということです。

 

 欧米ではすでに「詳しくして見える化」は始まっていて、お手本とされる英ロールスロイス社はばっちり書き込んでて超すごい、みたいな感じです。

 

 でも残念。企業と監査法人の意見のぶつかり合いをばっちり書き込んだ報告書なんて、ロールスロイスだってやってません。

 

 いやまあ確かに、「そうなればいいなあ」とは思ったからこそ始まった取り組みなんですが、海外での運用状況は、例えば将来の売り上げ見通しとか、従業員の年金の運用利回り予想だとか、当然ながら100パーセント確実だとは言えないような事柄について、「会社側はこう言ってますが、監査法人としては、かくかくしかじかの理由から下振れのリスクがあると思いますよ」みたいなコメントがつくだけです。

 

 要するに、企業は大して傷つかないし、監査法人は事前に言い訳してリスクを回避する、みんな具合が良くて、まさにウィンウィン。そんな感じです。

 

 そもそも昔から、会社側と監査法人がガチで意見が対立する場合は、監査報告書は「アウト」か「監査不能」になって、監査法人が交代するか、あるいは上場廃止か、って感じでしたしね。、

 

 しかも新制度では逆に、「会社はこう言ってますが、監査法人としては、もっといい感じに上振れするかもしれません」みたいな、よいしょコメントが入る場合も少なくない。なんというステマ!(おっと、全くステルスではありませんね)

 

 お手本とされたロールスロイスも、あれは新基準の発表前に鼻息荒く「俺が見本になってやるぜ」と意気込んで自主的にやってみたら、その後に発表された基準は全然緩くて、各社とも「おやおや、やっちゃいましたね。ロールスロイスさん(笑)」と生暖かく見守り、ロールスも一回やった以上引っ込みがつかなくなってしまって、毎年、「自主基準」を続けざるを得ないありさま、というのが実態です。

 

 だいたい、ロールスの報告書の内容って、みなさんご存知(?)、日本企業だって毎年きちんと発表しているIR報告書(もちろん、会社によって充実具合には大きな差がありますが)と大して変わりないですよ。もうちょっと専門的な書きぶりではありますが。

 

 じゃあ、何の意味もない改革なのかというと、そうでもない。

むしろあおりを食らって、証券アナリストが絶滅しかねないかもしれないような気もしなくもない(こういうあいまいな書きぶりを追放するために、監査報告書改革が必要なのかもしれません)。そこはインパクトが大きい。

 

 証券アナリストっていうのは、建前上は、鋭い目利き力で業界の先行きや企業の成長性を見抜いてレポートすることで評価される、ってことになってます。

 

 でもまあ実態は、企業取材で仕入れた極秘の早耳情報を、大口のお得意様の投資家に内緒で耳打ちして、「儲かりそうですよ」って伝えることが存在意義だったわけです。

 

 それが「インサイダー情報の事前リーク」だと厳しく規制されるようになり、ようやく本業の財務分析に力を入れるようになったわけです(え、全然なっていないって?なってほしいなあ、って意味ですよ)。

 

 と思ったら、監査報告書が詳しくなって、アナリストがわざわざ分析しなくても、投資家は財務状況がよくわかるようになった。企業は決算と同時に詳細なIR報告書を出すようになった、そんな感じなわけですから、そのあとに証券アナリストが財務分析を始めても、時間的に追いつけないし、だれも(あんまり)読まない。

 

 というわけで、最近の若手アナリストは個別企業のCSRとかをレポートして、たまに業界まとめを書いて、それで取材した気になって、まともに財務分析をやらなくなった。と、ベテランアナリストは嘆いているとかいないとか。

 

 たしかにこの調子で、監査報告書に「業界全体の中での担当企業の位置づけも踏まえて解説するように」とかいう感じのことになったら、いや、気の利いたIR報告書はそういうことやってますから、なるほど、証券アナリストはこりゃ全滅だ、と思わざるを得ませんね。