七海が二人に、事件のすべてを話した。

光秀は黙って聞いていた。

最後に、彼女が訊いた。


「あの、明智さんも……探偵、なんですか」


「いいえ。私は、ただの相談者です」


光秀は、自分の名刺を置いた。表には何も書かれていない。

裏に、小さな字で「人、その話を聞く」とだけ。


「私は、あなたの店を救いに来たのではありません。あなたが、あの投稿を書いた者を赦せるかどうかを、見に来たのです」


七海は、初めて泣いた。


「赦せないです。うち、潰れかけてるんです」


「そうでしょう。だから訊きます。あなたは、その男を裁きたいのか、それとも終わらせたいのか」


信長は、口を挟まなかった。この男の言葉が、どこかで本物であることを、彼は認めざるを得なかった。光秀は、かつて自分の領で、年貢も、喧嘩の裁きも、記録を残して定めた男である 。

民の暮らしを、数字で見ていた男。その癖は、四百年を経て、まだこの体に残っていた。


「私は、あなたに赦せと言っているのではありません。手続きを踏めと言っているのです。削除を求め、記録を残し、名を明かさせ、しかるべき場所で決着をつける。それが済んだとき、あなたは初めて、赦すかどうかを選べる。順番が逆なのです」


信長が、低く笑った。


「……変わらぬな、明智殿」


「殿も」


「わしは変わる。この街で、変わるつもりだ。だが、そなたのやり方は、わしのやり方と違う。わしは、掲示板に公示を打つ」


「公示?」


「そうだ。桐生庵の衛生記録、保健所の確認書、三代の年季。すべてを、店の前に貼る。そして、ネットにも同じものを出す。『嘘をつく者は名を明かせ。わしは、すべてを明かす』――楽市の掟はな、売り手が何も隠さぬことから始まるのだ」


光秀は、しばらく沈黙した。


「……殿。それでは、あなたが叩かれます」


「叩かれよ。わしは、炎の中で一度死んだ男だ」