「いつまで待たせるんや!」

 

いきなり怒鳴られました。

彼はその日の初診患者さんでした。

 

強い痛みの出る場所に腫瘍がありました。

 

「うるさいな!なんとかならんのか!いつまでかかるねん!」

会話をする度に怒鳴られます。

様々な鎮痛剤を使っても治まりません。

腫瘍を取り除くしか痛みを取る方法はないのです。

痛みで顔がゆがみ、

横になるのも辛く苦痛でもだえる彼の治療方針を決めるためには

我慢をお願いするほかありませんでした。

 

ある日、そんな彼に

ようやくのことで気管支鏡検査を終えました。

彼は検査に耐えてくれましたが

検査後、

ひどい言葉で私を罵りました。

そんな彼に対して、背中をさすることしかできない私は

ただただ無力でした。

 

治療の目処が付くまでには時間がかかり、

手術は非常に困難を極めましたが

彼をはじめとした全員が協力し合い、

無事に痛みの根本を取り除くことができたのでした。

 

彼は穏やかに、告白してくれました。

 

「あのとき、

検査の後に先生が、背中をさすってくれた。

僕は先生にひどいことを言い続けたのに

ひたすら背中をさすってくれた。

今さらやけど、ありがとうな。あのおかげで頑張れた。」

 

あの時は他になにもできなかった・・・

 

でも、

薬がなくても

『痛みを診た』んだということを彼が教えてくれたのでした。

 

そして、

病気が彼を「怒らせていた」ということも。