摂食障害というとても難しい病気があります。
摂食障害を治す難しさは心療内科医、精神科医だって一体何%の人が治せるのかといったレベルにあり、その治癒率はガンに匹敵するといっても過言ではないと思います。
そうした摂食障害治療のゴールって何だと思われるでしょうか?
食事が普通にできるようになること?
拒食症であれば、体重を増やすこと?
過食症であれば、直すのは難しいから過食と付き合いながら生きることを学ぶこと?
おそらくそうしたゴール設定で治療に取り組んでおられる医者もおられるかと思います。
もしかするとかなり多くの医者がそうかもしれません。
「じゃあ、あなたの考えるゴールは何だと言うんですか?」
そんな声が聞こえてきそうです。
摂食障害という病気の治療は本当に難しいです。
ですから、あまりにも深く病気にとらわれている方、病気とともに歩んできた人生が何十年にもわたって病気が自分の一部になってしまっている方、こうした方の一部には病気と付き合いながらいかに少しでもましな人生を生きるかということを目指すのが精一杯ということもあるというのが事実です。
ただ重症の摂食障害から脱する方もいます。
そうした方々と共有し、目指す治療のゴールは、
「摂食障害という病気と闘(たたか)い、乗り越えながら人として成長し、楽しいなあ、幸せだなあっていう日を送れるようになること。
摂食障害という病気はただ体重を回復させるだけではだめ。
新たな自分に目覚めて成長し、楽しいなあ、幸せだなあ、ときにありがたいなあという日を送れるようになること」
それが摂食障害の治療のゴールです。
「大きなことを言っているけれど、本当にそんなことができるの?」って言われるかもしれません。
大きいとか小さいとかではなく、摂食障害の人たちの心を見つめ、本当にその心を救うことを考えるなら、これしかゴールはありません。
もともと心の中にある生きづらさがあって、摂食障害という病気に陥ってしまったのです。
治療に取り組む中で生きづらくなった心の問題を乗り越えなくては完治はありません。
「摂食障害が完治だって?完治した、絶対に再発しないと言い切れるのか?」って言われるかもしれません。
本当に楽しいなあ、幸せだなあという気持ちに目覚めて生きられるようになったとき、そこに摂食障害になる心の余地はなく、完治したと言えると思います。
少なくとも「本当によくなったね。もう治ったと言っていいと思うよ」と伝えた人で、再発した例はありません。
つい先日も2人の摂食障害の患者さんが完治間近になってきました。
その1人は「今は楽しいです。毎日が幸せだなあって思います。」という話をしてくれました。
こちらから何かを言って誘導したわけではないですよ。
自ら「今日はいい知らせをお話ししたくて来たんです」と話す中で、そうした言葉を発していたんです。
さらに、「私が『将来の夢がない』と言ったとき、先生は『摂食障害が治って本当の自分が出てきたら、夢は自然と湧き上がってくるよ』と言っていたけれど、本当に夢が出てきたんです。
ほんと先生の言った通り、良くなってきました」という話をしてくれました。
そうなんですね。
誰の心の中にも本当の自分があって、その本当の自分は自分のやりたいことを知っているんです。
夢もその本当の自分の心の中にあり、本当の自分に目覚めてくると自ずと幸せを感じ、夢も出てくるんです。
心の病気の治療はどのような病気でもそうですが、症状だけを見てそれを消そうとするだけの治療では行き詰まることがあります。
その人の心を見つめ、遠くにその人が楽しく、幸せに生きていただくことを思いながら治療を行っていく。
そうした姿勢がとても大切ではないかと思います。