建長寺の開山大覚禅師像を抱えて建長寺に行った時、三門を前に、30年は修行のため、山を降りないと禁則を立てていた慧遠法師が話に夢中になり、うっかり虎溪の石橋を越えてしまって我にかえって笑っている『虎溪三笑図』のような状態であった。もっとも私の場合は、笑うどころか満開の桜がまるでテイッシュペーパーに見えた。初めて坐禅をしたのが、その日の鎌倉禅研究会の椅子に座ってのことという有様である。 そんな私を支えたのは、七百数十年前の開山の一枚の頂相に感銘を受けた、幼い頃からの人間への私の視点、感覚である。人物の肖像から、この種の感銘を受けたのは、40数年の間でチャーリー・パーカー、村山槐多、ヴァスラフ・ニジンスキー、九代目市川團十郎、一休宗純、蘭渓道隆の6人しかいない。